ただ、ストリーミングが牽引するデジタル音楽配信の世界には新たな問題も生じている。IFPIが今年発表したレポートでは「バリューギャップ」という現象が問題視された。特にやり玉に挙げられ大きく批判されているのがYouTubeだ。

 バリューギャップとは「音楽業界に対して還元される対価がサービスによって著しく異なる」という問題だ。特にSpotifyやApple Musicのような定額制の音楽ストリーミングサービスとYouTubeのような広告収益モデルの無料動画共有サービスでは「1再生回数あたりの対価」が大きく異なる。

 デジタル音楽のディストリビューション会社であるチューンコアジャパン代表の野田威一郎さんは、こう解説する。

「基本的にはどのサービスでも全体の総再生回数のうちその曲の再生がどれくらいの率を占めるかによってアーティスト側に還元される収益が計算されます。なので、サービスによって1再生回数あたりの対価が異なるのは当たり前なのですが、それでもYouTubeのような広告収益モデルと他の定額制ストリーミングサービスのモデルは大きく違う。弊社で流通しているアーティストでは、現時点で平均してYouTubeのような広告モデルと、Spotifyなどのストリーミングサービスで、再生単価に10倍近くの開きがあります」

●ギャップをどうするか

 では、YouTube側はこの問題をどう捉えているのか。

「YouTubeは米国で1千ストリームあたり3ドル以上を支払っており、これは他の広告型のストリーミングが支払う額よりも多いことがわかりました」

 元ワーナーミュージックの会長兼CEOで現YouTube音楽部門のグローバル責任者であるリオ・コーエンさんが、音楽業界からの批判に対し、公式ブログでこのように記した。

 ではなぜこの事実は知られていないのか。

「YouTubeがグローバルなサービスであるため、発展途上市場の低い収益によって全体的な数字が薄まるからです。ただしYouTubeの広告事業への取り組みから、今後支払いは世界中で増えていくでしょう」(同ブログ)

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