YouTubeが音楽業界へ支払った額について、YouTubeの広報はこう説明する。

「これまでにYouTubeは音楽業界に30億ドル以上を支払っています。広告収入では12カ月単位で10億ドル以上を支払っており、その額は増え続けています」

 YouTubeは次世代を担うミュージシャンのサポートにも力を入れている。17年には新人アーティスト向けの支援プログラム「YouTube Music Sessions」を実施。六本木ヒルズにある「YouTube Space Tokyo」にWONKなど活躍が期待される8組を招きワークショップを行った。

「本年の取り組みは、YouTubeのアーティスト向け活用方法の講座に加え、人気ミュージックビデオの制作で知られる関和亮監督をワークショップに迎えました。同時に、参加アーティストのライブパフォーマンスミュージックビデオをYouTube Spaceにて制作し、8月に公開しました」(同)

 果たしてYouTubeは音楽の敵なのか、味方なのか。

●チャンネル登録に勝機

 前出の野田さんは「YouTubeを音楽プレーヤーとして捉えるかメディアとして捉えるかによって考え方が変わってきます」と解説する。

「YouTubeを音楽プレーヤーとして見ると、やはり現状では1再生回数あたりの対価は少ないと言わざるを得ない。しかしメディアとして捉えるならば話は変わってきます。チャンネル登録型メディアとして活用することで、YouTubeはアーティストにとっての大きな味方になります」

 YouTubeのメディアとしての特徴は「チャンネル登録」というユーザーがお気に入りの動画投稿者を登録する仕組みを持っていることだ。アーティストが自ら設立したチャンネルを拠点にファンを増やせば、そこで得た人気を他での収益につなげることができる。

 こういった「チャンネル登録」の仕組みを日本でうまく活用しているのはHIKAKINなどユーチューバーと呼ばれる動画クリエーターが主だが、海外ではジャスティン・ビーバーなどのミュージシャンがチャンネル登録者数ランキング上位に並んでいる。

 また、海外ではハイセンスな音楽を紹介するYouTubeチャンネルも登場し人気を博している。その筆頭がドイツに拠点を置く「マジェスティック・カジュアル」。心地よく洗練された電子音楽をセレクトするこちらのチャンネルは登録者数350万人。ここでピックアップされたことをきっかけに注目を集めたアーティストも少なくない。

 過渡期の続く音楽業界。YouTubeとどう向き合い、どう活用していくかは、今後のキーになりそうだ。(音楽ジャーナリスト・柴那典)

AERA 2017年9月4日