東京・恵比寿にあるチューンコアジャパンのオフィス。Heartbeatさんも事務所とレコード会社を離れ独立してからは、こちらのサービスを用いて音楽を配信リリースしている(撮影/品田裕美)
東京・恵比寿にあるチューンコアジャパンのオフィス。Heartbeatさんも事務所とレコード会社を離れ独立してからは、こちらのサービスを用いて音楽を配信リリースしている(撮影/品田裕美)
ミュージシャン Heartbeat(ハービー)さん/ヒットした「Fire」はFPSというジャンルのゲームの世界観をテーマにした一曲。今も「シンガー・ソングライター兼ゲーム実況者」として昼間は楽曲制作、夜はゲームに勤しむ(撮影/写真部・小原雄輝)
ミュージシャン Heartbeat(ハービー)さん/ヒットした「Fire」はFPSというジャンルのゲームの世界観をテーマにした一曲。今も「シンガー・ソングライター兼ゲーム実況者」として昼間は楽曲制作、夜はゲームに勤しむ(撮影/写真部・小原雄輝)
TuneCore Japan代表 野田威一郎さん/チューンコアジャパンは、レコード会社や事務所に所属せず独立して活動するミュージシャンでもiTunesやSpotify、Apple Musicなど世界各国の配信サービスに楽曲を提供することのできるプラットフォームを運営している(撮影/品田裕美)
TuneCore Japan代表 野田威一郎さん/チューンコアジャパンは、レコード会社や事務所に所属せず独立して活動するミュージシャンでもiTunesやSpotify、Apple Musicなど世界各国の配信サービスに楽曲を提供することのできるプラットフォームを運営している(撮影/品田裕美)

 何やら聴き慣れぬ音色が近づいてくる。奏者の姿は見えない。正体は、新たな展開をみせているAI(人工知能)。人間と協調して演奏し、わずか数十秒で作曲もするとか。AERA 9月4日号ではAI時代の音楽を見通すアーティストや動きを大特集。人間と音楽、そしてAIのトリオが奏でる曲とは、一体何か――。

 最近、YouTubeでしか音楽を聴いていない。そんな人も多いだろう。すっかり身近になったサービスだが、アーティストにとっては死活問題なのでは? しかしすでに収益化に成功している例も多いという。

*  *  *

「その日、家でパソコンを開いてiTunesのランキングのページを見た瞬間、『まさか!』ってちょっと震えました」

 Heartbeat(ハービー)さんは笑いながら振り返る。彼女が5月に配信リリースしたミニアルバム「Fire」はiTunesアルバム総合ランキングで2位を獲得した。1位はドラゴンアッシュ、3位と4位はミスター・チルドレンだった。

「2年ぶりのリリースなんですけれど、その間に所属していた事務所もレコード会社も辞めていて。自分でレーベルを立ち上げて出した作品なんです。だから本当に驚きでした」

 かつてテレビ番組「ASAYAN」の歌姫オーディションでグランプリに輝き、2002年に勝又亜依子として16歳でメジャーデビュー。その後改名するも、10年以上ヒット曲に恵まれないまま30代に突入した。メジャーレーベルや事務所との契約もなくなり、このまま音楽活動を続けるか悩んだが、「何も残せないのは悔しい」と独立して活動することを決断。活路として見いだしたのがYouTubeだった。

●ゲーム実況がきっかけ

「音楽きっかけじゃなくても私自身を知ってもらおう」と自身のYouTubeチャンネルを立ち上げゲーム実況の生配信を始めたハービーさんは、徐々にその世界にのめり込んでいく中で、YouTubeチャンネル登録者数170万人を超える人気ゲーム実況チームの「2BRO.」(兄者・弟者)とSNSを介して知り合い、交流を持つようになる。その縁で彼らが投稿する動画のエンディングテーマにオリジナル曲「Fire」が起用され、それがヒットの起爆剤となった。

「それまで周りの音楽関係者からは『ゲーム実況なんて何のためにやってるの?』と冷たい目で見られてきたんです。でも結果を出してようやく『こういう形もあったんだね』と認めてくれた。それも嬉しかったです」

 音楽マーケットの細分化が進み「誰もが知るヒット曲」が生まれにくくなった昨今。かつてのようにドラマ主題歌やCMソングのタイアップ起用がセールスに直結するわけではなくなった。しかしその一方で、昨年のピコ太郎「PPAP」旋風が代表するように、今までにない形でのYouTube発のヒットが生まれるようになっている。ハービーさんもそれを形にした一人と言っていいだろう。

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