ふんわりした雰囲気の楊暘さんだが、事業の話になると表情が一変し「できるビジネスパーソン」風に(撮影/朝日新聞編集委員・秋山訓子)
ふんわりした雰囲気の楊暘さんだが、事業の話になると表情が一変し「できるビジネスパーソン」風に(撮影/朝日新聞編集委員・秋山訓子)
有機農家の柳剛(リュウ・コウ)さんは脱サラ組。北京・三里屯のオーガニックマーケットで(撮影/朝日新聞編集委員・秋山訓子)
有機農家の柳剛(リュウ・コウ)さんは脱サラ組。北京・三里屯のオーガニックマーケットで(撮影/朝日新聞編集委員・秋山訓子)
北京で大流行のシェア自転車は、社会的企業かどうかが論争に(撮影/朝日新聞編集委員・秋山訓子)
北京で大流行のシェア自転車は、社会的企業かどうかが論争に(撮影/朝日新聞編集委員・秋山訓子)
「我々の業界は投資を必要としている」という喬克さん。「日本からの投資も大歓迎です」(撮影/朝日新聞編集委員・秋山訓子)
「我々の業界は投資を必要としている」という喬克さん。「日本からの投資も大歓迎です」(撮影/朝日新聞編集委員・秋山訓子)

 格差問題や教育、医療、環境と課題が山積する中国で、社会的企業が注目されている。規制や当局の監視ばかりが報道されがちだが、若い世代の反応は驚くほど速い。

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 中国では今、都市部を中心に社会的企業がちょっとしたブームになっている。特に、若い人たちの関心が高いのが特徴だ。
 昨年、日本のNPO法に相当する「慈善法」が成立し、社会課題の解決に取り組む活動をする団体を慈善組織として法的に位置づけ、今後寄付も集めやすくする。政府は同時期に中国国内で活動する人権系などの海外NGOを規制する法律も作っている。日本では規制や厳しい取り締まりのほうが注目されやすいが、それだけではない世界も急速に広がっている。

 都市と地方の格差や農村の貧困問題、教育、医療、環境など中国には社会課題がてんこ盛りで、政府の力だけでは対応しきれない。しかも、経済的に豊かに育った若い世代や、ビジネスで成功して、第二の人生では社会課題の解決に取り組みたいという層がいる。ネットなどのテクノロジーを駆使しているのも特色だ。

 北京で6月に開かれた社会的企業・投資フォーラムは今年で3回目になるが、全国各地から1千人が集まり、多くのセッションが開かれて大盛況だった。イタリアの研究者や南アフリカの社会的企業・投資家も招いて、国際色も豊かだ。

●モバイル保険の先進国

 セッションで発表した喬克(チャオコー)氏(38)は、医療互助組織である「衆托幇(ジョントーバン)」を昨年立ち上げた。モバイルを利用した安価な民間保険のイメージ。河南省出身で西安の大学の修士号を得た後、民間の大手保険会社でキャリアを積み、昨年起業した。

 中国では公的保険があるものの、必ずしも全ての傷病をカバーしきれていない。民間の保険は高額で入れない人たちも多い。そこで定額の会費を出し合って、いざ病気にかかったら、お互いに支え合う仕組みをつくった。「公的保険と商業保険の空白を補うもの」だという。

 年齢別などで四つのタイプがあり、入会するには最初に10元(約170円)払う必要がある。誰かが病気になったら会費から引かれるが、1人で1回に負担する額は3元以内で、病気になったら最大で30万元(約510万円)の保障が受けられる。手続きはすべてモバイルだけで済ませられるシステムだ。

 2016年7月にサービスを始めてまだ1年ほどだが、すでに会員は800万人を数えるという。中国にはこの種の「モバイル保険」が今多く出ており、中には詐欺まがいのものもあるというが、「衆托幇」ではすでに三十数件保障したケースがあるという。28歳の男性は、肺がんの一種であることがわかり、30万元が支払われた。

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