『石、転がっといたらええやん。』の著者であり、ロックバンドくるりのリーダー岸田繁がAERAのインタビューに答えた。
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初の単行本と聞いて意外だった。くるりというロックバンドのリーダーとしての活動や言動のはしばしに、「文体」をいつも感じていたからかもしれない。日々を生きる「私」と、表現者としての「岸田繁」が交錯しながら、微熱を放つ。雑誌「ロッキング・オン・ジャパン」に2006年6月号から連載されているエッセイを10年分まとめた本書を読んで、その多様な文章から岸田の異才と誠実さをあらためて感じた。日々雑感、旅日記、詩、読者相談、音楽業界への提言や苦言など内容はさまざまだが、そのときどきの岸田の感じたことがリアルに記されていて風化を感じない。
「“どう読ませたいか、どういう気持ちにさせたいか”という根本は変わらないですね。読み手をちょっと違う世界に連れていくことだったり、そういうことを考えて書いているので」
10年の集積である本書で、ちょうど中盤に3・11東日本大震災が起こる。自身も記憶をなくすほどの混乱にさらされながら「こんにちはストレンジャー」という一章を岸田は書いた。
「あのときだけですかね、原稿を落とすことを考えたのは。ただ、この原稿を(こんな状況でも)待ってくれてる担当者のことをまず考えました」
結果的に、書き続けたことで毎月のルーティン以上の意味が岸田自身にも生まれていった。
「本になる前に原稿をチェックしてるときに読んでて“あ、音楽と一緒やな”と思ったんです。僕は、音楽もこのようにして作ってる。とても冴えた瞬間の核心のようなものが書けることは毎月はないけど、たまにそういうものが書けたときは、後々になってそれがいろんなきっかけとして返ってくるんだなと」
期せずして、本書と時期をおなじくして、初の本格的なオーケストラ作品である「岸田繁『交響曲第一番』初演」(ビクター)がリリースされた。多才を買われて、小説のオファーもあるのではと問うと、岸田は「僕は小説をほとんど読まないので」と笑って否定したが、こうも付け加えた。
「やってみようとは思わないですけど、“やってみたら?”と言われたらやるのかもしれない。この連載も、オーケストラも最初はそうでしたし。自分からは何もしないぐうたらなんですけど、頼まれたら“あなた、たぶんそこまで僕に期待してないやろう?”って気になって、それを超えてやりたいと僕は思うほうなんで(笑)」(ライター・松永良平)
※AERA 2017年7月24日号