腎臓も人工透析一歩手前のレベル。点滴で腎機能を補完し、なんとか手術も乗り越えた13年5月。風邪をひいた博さんは大事を取って入院したが、容体は急激に悪化。長男の辻さんはついに、担当医から延命措置について判断を求められた。

「その段階までいくと当人にはほぼ意識はないので、あらかじめ決めておいてくださいと」

 病床で苦しんでいる父親に、人工呼吸器などの延命について確認せねばならないつらさ。博さんの出した答えは「NO」だった。

「『できる限りのことはすべきでは』という意見も出ました。その気持ちも十分わかる。僕だってもちろん生きていてほしい。でも『できる限りのこと』なんて、言うのはたやすいんですよ」

 付き添い続ける母の体調は?長期にわたった場合の費用は? 様々な考えが去来した。

「最終的に、父の希望を受け入れました。僕が父でも、延命は望まないだろうと思いましたし。実は父のエンディングノートがあったんです。でも書かれてあったのは、死後のことと周囲への感謝の言葉ばかり。『自分の死をどう扱ってほしいか』を、元気なうちに書き残しておく大切さを、実感しましたね」

「自分もいずれ行く道だ」と、辻夫妻は自分たちのエンディングノートを書くことにした。

(ライター・浅野裕見子)

AERA 2017年7月10日