●異物混入の遠因になる

 店舗経営では、オペレーションとマーケティングのバランスが最も難しい。人気のハンバーガーでも、作る手順が複雑すぎてクルーへの負担が大きくなると、供給スピードが遅くなったり、人員が割けなくて清掃に手が回らなくなったり。結果的に顧客満足度を落としてしまう。

 よりおいしい商品やより楽しいキャンペーンを実現したい本社。日々、店舗を運営する現場。誤解を恐れずに言えば、本社の意向と現場のキャパシティーとの間に生じるこうしたギャップが、商品への異物混入のような事態を招く遠因になり得る。再導入された地区本部制はそんな事態を解消する役割も担った。

 東京の本社には言いにくくても、心理的距離の近い地区本部にならこんなことも言えた。

「この新商品、お客さんには受けそうなんだけど、1週間だけ期間を短くしてほしい」

 経営が悪化した店舗への財務支援や店舗改装の窓口も、地区本部が担った。マクドナルドでは14年末から、当初の計画を前倒しして、首都圏を皮切りに直営店の改装を実施していた。FC店が店舗を改装する場合、本部からの資金援助はあるものの、半額近くはオーナーの持ち出しとなる。小さな額ではない。しかし、先行する直営店では、改装の効果が目に見えて出始めていた。

 地区本部のスタッフからこの事実を耳にした高橋も、資金的には厳しかったが、10店舗の改装を決意した。実際に改装を済ませると、来店客は予想を上回る増加ぶり。投資額も回収の見通しが立っているという。

●コーヒーのSとミルク

 東日本地区本部長を務め、青森から山梨まで15都県、直営店を含め、約1100店舗をフォローする長井正(58)は、こう話す。

「問題が起こるまでは、頭の中が『直営主体のビジネスモデル』のままで、切り替わっていなかった。われわれは、優秀なフランチャイザーじゃなかったんです」

 どんなにすばらしい戦略も、実行する現場がそれを実感しなければ意味がない。自分はそのサポート役に徹したい。マクドナルドのFCオーナーは、約85%が元社員。だからこそ分かり合える部分もあれば、難しい部分もある。過去の成功を捨てられるか。異物混入のような問題が起きても揺るがない、強固な顧客との関係をつくれるか。

 その意味で、15年4月に導入したアプリ「KODO」で顧客の声がダイレクトに届くようになったことは大きい。

 直営店の一つ、マクドナルド環七豊玉店の店長、黒川秀太(30)には苦い思い出がある。

 他店で異物混入問題が発覚したのは、埼玉・大宮駅前店店長時代。ぱったりと来なくなった50代の男性客がいた。ホットコーヒーのSサイズにミルク二つ。平日は毎日来店して、黒川とは互いに挨拶を交わす仲。コミュニケーションはできているつもりだった。

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