病院長:確かに、犬のほうがよりかなり不調がわかりやすい。最近は腫瘍のほか、心臓、肝臓、腎臓などの内臓疾患の患畜が増えました。今後は緩和ケアの重要性が増していくでしょう。抗がん剤の治療を続けフラフラの状態で10カ月を過ごすのと、元気に7カ月過ごして、いよいよというときに緩和ケアをして安らかに最期を待つのとどちらがいいのか。考えるべきときです。ただ、緩和ケアは時間もかかるし、慢性の病気に薬を出していたほうがお金になるせいか、あまり浸透していません。

開業医:病院経営も大変ですからね。ペットの頭数は年々減っているのに、病院は増えている。特に都市部は飽和状態です。以前私が開業していた地区は病院が増えすぎて、顧客が往時の半分近くまで減ってしまった。比較的開業医の少ない地域に引っ越したくらいです。

●専門医は全然足りない

病院長:専門医は全然足りていないんですけどね。アメリカでは、専門病院とかかりつけ医が連携治療を行っています。1人の獣医師が、避妊・去勢に骨折、開腹手術までこなすなんて、現実的じゃない。人間の医療と同じで、1次診療、2次診療、高度医療を分担するのがいいですよね。

大学勤務:大学病院も扱う症例は多いし、人員的にかなりギリギリ。手術スタッフは6人いますが、手術日には10件以上予定が入っています。緊急手術はあまり受けられないのが実態。

開業医:命に最後まで責任を持つ飼い主には協力を惜しみませんが、最近、わがままな飼い主も増えている気がします。犬の散歩の途中に立ち寄って「いますぐ予防接種を」と迫ったり、診察中の患畜の飼い主をにらみつけたり……。

病院長:過剰で理不尽な要求をする飼い主は、一定数いますよね。ネット上の不確かな情報をうのみにして、疑心暗鬼になるケースもよくあります。ぼくは、徹底的に論破しますけどね。とことんやっておくことで、信頼関係ができたりもしますよ。

●夜間診療はペイしない

大学勤務:治療方針や治療法の説明には30分から1時間ほどかけていますが、話を聞く気のない飼い主は困ります。腫瘍がある場合、脚を切断するのか、再発のリスクがあっても放射線治療を選ぶのか、死亡リスクはどれくらいか、飼い主が理解してくれないと治療に支障が出るんです。患畜が死ぬと、飼い主に「手術なんてするんじゃなかった」「医療ミスじゃないのか」と詰め寄られることもあります。トラブル対応の仕組みが組織的に整っているわけではないので、担当の獣医師が個別に対応することになる。飼い主の気持ちはわかるのですが、正直とてもストレス。結局、訴訟リスクに備えて獣医師賠償責任保険に入りました。幸い、まだ使ったことはありませんが。

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