大阪は植民地時代の朝鮮半島から多くの労働者を集め、ことに平野川改修工事という大事業に、済州島から大挙して押し寄せた人たちが旧猪飼野地区(現在の大阪市生野区・東成区一帯)に集住した。その子孫が二世になり三世、四世、五世になった。ある者は国際結婚し、ある者は帰化という名のもとに日本国籍を取得し、ある者は朝鮮戦争後に韓国に籍を移し、ある者は祖国の南北分断で単なる「記号」と化した朝鮮籍にこだわってきた。彼らが抱く日の丸・君が代への思いもまた、一様ではない。そうした歴史的経緯に理解が深いからこそ、大阪府内の公立学校、特に府立高校は入学に際して民族名を使用する指導に取り組んできたのではなかったのか。

 大阪府出身の在日三世で『ルポ 京都朝鮮学校襲撃事件 <ヘイトクライム>に抗して』などの著書がある中村一成(いるそん)さんはこう語る。

「全国に広がる朝鮮学校への補助金停止・廃止も橋下徹氏の『見直し発言』がきっかけで、石原慎太郎氏らがリレーのように続いていった。補助金をチラつかせて外国人学校の教育内容に介入し、最後は補助を打ち切るなど教育の多様性を否定することでしかない。『改革』とは名ばかりの少数意見の排除だと思う」

●ベテラン教員の流出前教育長はセガに再就職

 良心的な教育者はこうした状況に陥った大阪に心理的距離を置き始めている。ある教育ジャーナリストは嘆く。

「京都の私立高校の理事長と雑談していたら『最近、大阪府立高校を辞めたベテランの優秀な教員が流れてくるから助かってます』と真顔で言うので驚きました。その一方で『これ以上、教え子を大阪の公立学校に送り込みたくない』と大阪以外の近隣府県での教員採用を目指すように指導している教育大学や教育学部の教授も一人や二人ではありません」

 公募校長を経て大阪府教育長になり、君が代斉唱の口元チェックで話題を呼んだ中原徹氏は、府教委職員らへのパワーハラスメントを問題視されて辞職、維新のカジノ構想に積極参入の意思を示す遊戯機器メーカーに再就職した。一方、同僚らに「誰が傷つくわけでなし、書類にサインさえすればよかったんちゃうんか」と心配されながら信条を曲げられなかった硬骨漢。

 2人から職を「奪った」理由をただすと、府教委はこう回答した。

「総合的判断です」

(編集部・大平誠)

AERA 2017年6月12日号