「差別解消を否定するのは、つまり差別を認めるということ。永田町、特に自民党には根強い偏見があると感じる。公明党がLGBT支援に積極的ではないのも不思議だ。今は動きが止まってしまっているので、理解増進でもいいからとにかく成案にしてもらい、議論を進めたい」

 と話す。

 しかし自民党関係者の中には、この理解増進法案に向かう動きにすら拒否反応を示す人が多いのが現状だ。

 麗澤大学教授の八木秀次氏は、「わが党の基本的な考え方」の素案に、「性的指向や性自認にかかわらず」という表現が多用されているのを見て、驚いたという。

「異性愛と同性愛を平等に扱うのは危険です。婚姻で同性カップルを同じように保護すれば人口減少が進み、教育現場では混乱が起きます」(八木氏)

 その後、八木氏の要請により「かかわらず」という文言は消され、「多様なあり方を受け止め合う」などに修正された。
「男女共同参画社会基本法の『性別にかかわりなく』という表記を思い出しました。各地で過激な性教育や極端な政策が生まれるなど、この言葉の威力に気づかなくて当時は失敗した。その後何とか正常化できて良かったのですけど、もう同じことは繰り返してはいけませんから」(八木氏)

●女性運動との連携希薄

 1990年代後半から00年代半ばまで、男女共同参画社会基本法に反対した保守側は様々な運動を行った。中でも、「同性愛者・両性愛者を増やし、男か女か分からないような人間をつくる」と最も大きな批判にさらされたのが「ジェンダーフリー」だ。フェミニズムや性的マイノリティーについて研究する東京大学の清水晶子准教授は指摘する。

「当時は社会のLGBTへの嫌悪をフェミニストへの攻撃に利用していました。あまりにも激しいバッシングだったため、女性運動もLGBT運動も追い込まれ、共闘が阻害されて、その後の連携が希薄になってしまいました」

 先日、台湾でアジア初となる同性婚を容認する判決が出たが、台湾ではこうした人権活動の連携が強いのだという。90年代には日本と台湾の状況はあまり変わらなかったが、その後台湾のLGBT政策だけが英米型の進歩を遂げている。

 昨年作成された自民党の性自認についてのパンフレットには「ジェンダーフリー論とは全く異なる」、そして「教育現場等において、これらの問題を政治的に利用しかねない団体の影響に対して、細心の注意を払って対応」すると書かれている。この団体は、宮川氏によれば主に「日教組」などを指すようだ。

「教育現場では中立性がとても大事です。偏向教育が行われないようガイドラインの作成も検討しています」(宮川氏)

(編集部・竹下郁子)

AERA 2017年6月12日号