鉄パイプで組まれた舞台の上から、滝のように水が流れ落ちる。使われる水は十数トンに及ぶ(撮影/門間新弥)
鉄パイプで組まれた舞台の上から、滝のように水が流れ落ちる。使われる水は十数トンに及ぶ(撮影/門間新弥)
全員総出で迎えたクライマックス。小舟に乗って立ち上がっているのが看板女優の千代次さん(撮影/門間新弥)
全員総出で迎えたクライマックス。小舟に乗って立ち上がっているのが看板女優の千代次さん(撮影/門間新弥)
舞台を縦横無尽に使いながら、緊迫した場面を演じる役者たち。1年に1度だけ集まって公演を重ねてきた(撮影/門間新弥)
舞台を縦横無尽に使いながら、緊迫した場面を演じる役者たち。1年に1度だけ集まって公演を重ねてきた(撮影/門間新弥)
「水族館劇場」主宰の桃山邑さん。上演直前まで厳しい口調で指示を飛ばしていた(撮影/門間新弥)
「水族館劇場」主宰の桃山邑さん。上演直前まで厳しい口調で指示を飛ばしていた(撮影/門間新弥)

「役者も鳶(とび)なら裏方も鳶」。「水族館劇場」は、結成30年のこの春、「アングラ芝居の聖地」に乗り込んだ。自ら組み上げた舞台で、観客の度肝を抜いた。

 東京・新宿の花園神社。境内の灯籠に明かりが入るころ、一角にそびえる仮設劇場に観衆が群がり始めた。4トントラック10台以上の資材で約1カ月をかけてつくり上げたこの劇場は、11月の「酉の市」には見世物小屋の立つ、畏怖と喧騒と猥雑とが入り乱れた、吹き溜まりのような地面の上に立っている。

 午後7時。劇場横の屋外舞台で役者たちの「顔見せ口上」が始まった。

「よっ!」「待ってました!」。観衆からの野太い声。ひょうきんな掛け合いが続いた後に、100人を超す観衆は劇場内へ。

 結成30周年となる今回の演目は「この丗(よ)のような夢・全」。政治的亡命を余儀なくされた都会の舞台女優が、若き日の郷愁や悔恨を手繰り寄せながら、幻影に追い詰められていく。現世と来世、善と悪、過去と未来が混然一体となって渦巻く。「水族館劇場」主宰の桃山邑(ももやまゆう)さんによる作品だ。

「見世物芝居」を自認するだけに、驚きの場面が続く。工事用車両の大きなクレーンに、役者の乗る複葉機がつり上げられ、ゆらゆら宙を舞う。生きたカモも突如出てくる。舞台中央には池がつくられ、28匹ものコイが泳いでいる。かと思えば、滝のように水が流れ落ち、巨大なプラスチックの龍が眼前に舞い上がる。前列の観衆は、ビニールシートなしではずぶ濡れになるほどだ。

●ありえない量の水使う

 劇中、危険を顧みずに幾度もその池に飛び込んだのは、「火山局の地震技師」役の若手役者、七ツ森左門(ななつもりさもん)さん。

「水が漏れないようにするために、囲いを作って、何重にも養生します。飛び込んだ時に溢れないようにも調整して」

 九州から上京し、2007年から「水族館」にかかわる傍ら、普段は柱や型枠などを据え付ける「建て込み工事」に従事する。この一座の醍醐味は、「役者が全部つくっているところですかね」。役者と裏方の両立は難しいが、既成の劇場では、こんなにも無茶な量の水を使えない。舞台を改造することもできない。

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