朝鮮半島情勢が緊迫している(※写真はイメージ)
朝鮮半島情勢が緊迫している(※写真はイメージ)

 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。
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 朝鮮半島情勢が緊迫している。米メディアは4月13日、米国は、北朝鮮が核実験を実施すると確信した段階で先制攻撃をする用意があると報じた。翌々日の15日は北朝鮮の祝日「太陽節」にあたり、核実験の可能性が高いとも報じられた。米国が攻撃すれば北朝鮮は弾道ミサイルで反撃し、その照準は日本に向く可能性がある。すわ戦争かと日本のメディアは色めき立ち、前夜のSNSは怯える呟きで埋め尽くされた。

 2015年9月の安保関連法成立以降、日本が米国の戦争に巻き込まれる危険は繰り返し語られてきた。しかしそこで想定されていたのは、遠い中東やアフリカの地で自衛隊が戦闘に巻き込まれるリスクである。多くの国民は、まさか本土攻撃が本気で警戒される日が来るとは思ってもいなかったにちがいない。

 それにしても、この騒ぎで思い知ったのは、日本の圧倒的な不能性である。米国と北朝鮮の戦争に巻き込まれるとわかっても、ほとんどなにもできることがない。そもそも日本は地政学的に、重武装で軍事的に自立するか、米国につくか中国につくかロシアにつくか、いずれかしか選択肢がない。そして日本は長いあいだ対米従属を選んできた。

 それは米国が「まとも」な国であるあいだは賢い選択だったかもしれないが(沖縄の多大な犠牲のうえではあれ)、トランプのような大統領が現れると突然リスクに変わる。「日本や韓国に犠牲があってもやるときはやる」と米国が言い出してしまったら、現状ではどうしようもないのである。

 太陽節は過ぎたが、緊迫した状況は変わっていない。米国と北朝鮮は挑発をエスカレートさせている。いずれにせよいつか北朝鮮は崩壊するだろう。いまの日本に可能なのは、せめてその時機やプロセスが米国第一で決定されてしまわないよう、外交を尽くすことぐらいだ。

 とはいえ、いつまでもこのままでいいわけがない。今回の北朝鮮危機は、対米従属の一択がいかに危険であるかを教えてくれた。日本の安全保障は、今後は、米国が「まともでなくなる」可能性も考えて構想されなければならない。それが「トランプ以後」ということである。

AERA 2017年5月1-8日合併号

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東浩紀

東浩紀

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

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