具体的には、資料を出さないクライアントなどには、チームのなかだけで解決せず、新設した監査品質監督会議で対応するようにした。また、これまでは年に1回だけ経営者と会って話をし、ビジネスリスクを共有していたが、CFOや事業部長など、会う人の幅や回数も増やした。

 だが、会計士の現場は年々厳しさを増している。別の監査法人に勤める39歳の会計士が嘆く。

「学生時代は年に1度の決算期だけ働く給料のいい季節工のような仕事だと思っていたが、03年に四半期決算が義務づけられ、会計基準も監査も厳しくなる一方で、業務量も増えている。企業の国際展開も進み、不正を見抜くのは難しい」

 追い打ちをかけるのが、会計士不足だ。昨年の公認会計士の合格者数は1108人。この数は3大監査法人の採用予定数の合計を下回るという。会計業務が複雑になっていることからも、受験生は減り続けている。

●監査への敬意が薄い

 金融庁傘下の公認会計士・監査審査会前会長で、公認会計士の千代田邦夫さんは、ばっさりこう切り捨てる。

「実力のある会計士に会社が横柄になることはない。実態に沿った意見を経営者に進言できる者が実力のある会計士。新日本の監査チームの責任者に実力がなく、結果として不正を見抜けなかったに過ぎない」

 青山学院大学大学院教授の八田進二さん(会計監査論)も「監査がリスペクトされていないのが問題」と指摘する。

「例えば社外取締役の給料は、業務量の多い社外監査役より高いなど、日本では監査への敬意がまだ薄い。しかし、会計士には社外取締役や監査役と情報を共有しながら、トップ主導の会計不正を監視する重要な役割がある」

 先の片倉シニアパートナーも同様の指摘をする。

「例えば、アメリカは経営者が虚偽の財務諸表を出すと刑事責任が問われるため、会社幹部と監査法人が緊密なコミュニケーションをとっている。日本では課徴金が科せられることはあるが、緊張の度合いがまったく違う。財務諸表を作るのは経営者、そして会計士はそれを監査する。こうしたことを言うと言い訳がましく聞こえるかもしれないが、そうした前提があってこそ、私たちもきちんと監査ができる」

 第二の東芝を生まないためには、監査に対する意識も変えていく必要がある。これも東芝不正会計に学ぶ教訓だ。

(編集部・澤田晃宏)

AERA 2017年4月17日号