最後の一杯は、カツオ・昆布の出汁(だし)と蒲焼きのタレの風味がバランス良く合わさり、最初とはまったく別の料理になってくる。ひとつの料理で三つの味わいを楽しめるのだ。

●とんかつとは別のもの

 もうひとつの名古屋メシの特徴である「意外な組み合わせ」だが、これは味噌カツが代表的だろう。今年、創業70年を迎える老舗「矢場とん」の東京銀座店。名古屋・矢場町の本店で古くから人気の「わらじとんかつ」は、ここでも一番人気。その名のとおり、わらじのような大きなサイズのとんかつで、運ばれてくると目の前で味噌をかけてもらえる。

「味付けは味噌か、味噌とソース半々かを選べますが、東京では半々を頼む方が多いです」(フロアチーフ・田所光一郎氏)

 ということで半々にして食べ比べてみると……。名古屋の味噌系料理は「くどい、味が濃い」という否定的なイメージを持たれることも多いが、矢場とんの味噌はさらりとして甘みがあり、驚きを覚える。女性に好まれる味で、この店でも4割が女性客だという。

「ウチのとんかつは植物性油で揚げているので、胃もたれしません。肉も叩きません」(田所氏)

 肉は厚すぎず、薄すぎず。衣はきめ細か。キャベツは味噌が絡まるように、千切りは粗め。体育会系男子学生の食べ物というイメージのとんかつとは別の料理、とさえ感じる。

 他にも、今じわじわと関東での認知度を広げつつあるものに「カレーうどん」がある。

 名古屋でうどんと言えば、味噌煮込み。しかし実は、名古屋のカレーうどんは他県のものとは少し違う。それは、スープの「とろみ」である。名古屋では、「あんかけスパゲティ」もあれば、うどん屋ではメニューにたいてい「あんかけ」がある。カレーうどんでも、とろりとした食感が定番なのである。

 それを東京で味わえるのが、「若鯱家」。新宿イーストサイドスクエア店は、昼時になると近隣の会社員でいっぱいだ。関東エリアマネージャーの水野敦之氏はこう話す。

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