●「妊娠は女性の幸せ」価値観を押しつける友人

 一方で、この頃友人を一人失った。流産などの不安から職場などで妊娠を公にしていなかったが、その友人は「妊娠は女性として喜ばしいことなのに、どうしてオープンにしないの」「みんなに祝福してもらえばいいのに」などと価値観を無理に押し付けてくる。赤ちゃんの病気が分かっても友人に言う気になれず、出産後に「あなたの言葉がずっと負担だった」と伝え、以降、距離を置いている。

 誰もが幸せな妊娠・出産ができるとは限らない。そのことが社会で広く共有されていないことで、苦しむ女性たちがいる。15年12月に死産を経験した川崎市の女性(32)は言う。

「妊婦さんって幸せの象徴だと思われていますよね。でもそう思えない人もいるんです」

 妊娠23週(6カ月)のとき、おなかの息子の心臓や肺に異常が見つかった。さらに胎児水腫もわかった。

 夫は仕事が忙しく、近くに頼れる身内もいない中で、フルタイムで働き、保育園に通う娘の送迎や子育てに加えて毎週の通院に追われる日々。その上、検査のたびに深刻な状況を伝えられる。街で元気そうな赤ちゃんや妊婦を見るたび、「なんで私の赤ちゃんだけ……」と目を背けた。

 クリスマスイブに帝王切開を予定していたが、入院当日の朝、息子は亡くなった。年明けに無痛分娩で産むことが決まったものの、クリスマスの夜に破水し、翌朝病院へ。土曜日で麻酔科医が確保できないため無痛の処置はできず、2日間陣痛と闘った。このとき「最後まで苦しめるなんて」と、息子を憎らしいとさえ思った。

 心身とも苦しい妊娠・出産だった。けれど今は、度重なる余命宣告をはねのけ、妊娠36週まで生きた息子を誇らしく思う。4歳だった娘も一生懸命おなかの赤ちゃんを応援してくれた。息子にとっておなかにいた期間は立派な人生だったと思える。

「私のようなことは誰にでも起こり得るし、無事に生まれるということは本当に奇跡的なことだと、もっと知ってもらいたい。それが、戸籍にも存在しない息子が、生きた証しになると思う」

(編集部・深澤友紀)

AERA 2017年2月20日号