赤ちゃんの誕生は喜びと慈しみに包まれる大きな幸せだ。だが、悲しい出産の現実もある。たとえ産声があげられなくても、長く生きられなくても、小さな命の輝きは、かけがえのないものだと知ってほしい。AERA2月20日、27日号で反響を呼んだ連載「みんなの知らない出産」をお届けします。
* * *
妊娠すれば元気な赤ちゃんが生まれるはず。そう思っている人は少なくないだろう。でも実際はさまざまな形の出産があり、悲しみの中で出産に臨む妊婦もいる。
出産や陣痛の痛みは、「鼻の穴からスイカが出てくるよう」「ダンプカーがおなかや腰の上を走るよう」などと表現されるほど激しい。それでも、女性たちはもうすぐ赤ちゃんに会えると思えばその痛みを乗り越えられる。だが、産声を聞けないのに、その苦しみに耐えなければならない女性もいる。
都内に住む女性(29)は4年前、第1子を妊娠した。出産予定の産婦人科は個人病院ながら最新機器を導入し、壁のスクリーンに好きな映像を流し、アロマをたきながら出産できると評判の病院だった。
妊娠30週(8カ月)の妊婦健診。いつものように内診台に上がり、院長の男性医師がおなかの赤ちゃんの様子をエコーで確認する。
普段、胎児の様子を教えてくれる院長が、画面を見つめたまましばらく何も言わない。
残酷な宣告が沈黙を破った。
「赤ちゃんの心臓が止まっています」
●亡くなった赤ちゃんも陣痛を起こして産む
その後の記憶がない。院長からの説明も耳に入らず、気がつくと病院の外の歩道に倒れ込んで泣いていた。
近くに住む実家の母に迎えに来てもらい、病院に電話して再度説明を聞いてもらった。亡くなった赤ちゃんも、生きている子と同じように陣痛を起こして産まなければならないと知った。
翌日入院すると、まだ出産準備に入っていない子宮口を無理に開くため、水分を入れると膨らむ「ラミナリア」を子宮頸管に差し込まれた。激痛が走る。1日かかって三十数本も入れた。
出産の痛みは生きて生まれてくるから受け入れられるものだと思う。赤ちゃんが死んでいるのに、どうやって耐えればいいというのか……。亡くなったとわかった途端に、主治医が院長から別の医師に代わったのも「死んだ子はどうでもいいのか」と悔しかった。