●東日本大震災で一変

 東芝は急遽、半導体部門の分社化を打ち出したが、結局これも1年前の決算書づくりと同じ「便法」である。またしても稼ぐ力のある「虎の子」を切り離せば、残った東芝はますます自立できなくなる。政府系金融機関や政府系ファンドによる出資の声が出ているのは、要は最終的に「国民負担」で処理する、ということに他ならない。

「実は東芝はあの時つぶれていたんです」──。粉飾決算が表面化する前、経済産業省の幹部が言っていた。もう時効だと思ったのだろう。

 あの時とは2009年春のことだ。リーマン・ショックの影響で国内企業が苦境に立たされた。その最も深刻な例が東芝だった。当然、経産省が先頭に立ち、他の省庁や銀行も協力して東芝をひとまず危機から救った。

 ところがそこに11年、東日本大震災が起きる。原発ビジネスを巡る環境が一変。買収して抱えていたWHの資産価値が目減りした。ところが経営陣は巨額の損失計上を避けるために、イケイケドンドンの事業計画を掲げ続け、粉飾がまかり通るようになった。

 東芝に原子力だけを残しても、「国は助けてくれるに違いない」というのが東芝の経営者や銀行の考えなのだろう。だが、過去の失敗を繰り返したくない経産省は救う気がないようにも見える。原子力技術を日本に残すことは必要でも、東芝という企業体を残すことと同義ではない。

「WHを引き取るところなんて、どこもないだろう」と経産省の大物OBも言う。東芝の原子力事業と、日立製作所と三菱重工業が持つ原子力事業と統合する案もささやかれるが、損失額の確定すらできないWHがもれなくついてくるのでは、日立も三菱もおいそれとは首を縦に振れない、というわけだ。

 何らかの「便法」でとりあえずこの3月末の決算を乗り切ったとしても、東芝がこの断末魔から抜け出すのは難しい。WHの引き取り手が出てこなければ、いよいよ秒読みが終わりに近づく。(ジャーナリスト・磯山友幸)

AERA 2017年2月13日号