同じ時期、一人暮らしが難しくなったすが子さんの実母は特別養護老人ホームに入所していた。外向的で、自由な生活が


 好きな実母は子どもの家で世話になるのを嫌がったという。

「実母は、『気ままに過ごせるこの施設が一番いい』と言っていました。どういう暮らし方が合うかは人によって全然違う。本人の希望を聞いて、できるだけそれに沿うようにしてあげられたらいいのだと思います」

 ヨシエさんを5月に受け入れてから半年間は、ヘルパーの散歩の介助などを利用しつつ順調な生活が続いた。それが一変したのは11月の肺炎による入院。退院後も頻繁に熱を出すようになり、認知症が進行。その後入退院を繰り返し、最終的に要介護度は5まで上がり、話すことも自分で食事をすることもできなくなった。家での介護が不可能になり、07年夏に特別養護老人ホームに入所。すが子さんは毎日昼食の時間にホームに通う生活を続けた。

●「元気なうちに話を」

 12年には胃がんが見つかった。病院での延命治療が続いたが、ヨシエさんの苦しそうな姿を見るのが耐えられなくなり、延命治療の中止を病院に依頼。最期は家で看取りたいと、13年4月半ばから自宅の寝室で介護をした。看護師やヘルパー、医者の助けも受けながら、たんの除去や酸素吸入もした。家に帰って1カ月足らずの5月4日、ヨシエさんは亡くなった。94歳だった。

「延命治療のこと、最期のことなど元気なうちに話しておけば、つらい治療をさせずに済んだのかな。自分の最期のことについてはきちんと決めておこうと思いました」

『親が70歳を過ぎたら読む本』の著者で東北大学特任教授の村田裕之さんは、

「親が60歳を過ぎたら、何があってもおかしくない。親が老いると具体的に何が起きるのか、身近にいる経験者から話を聞くなど、情報収集し、他人事ではなく自分事として想像しましょう」

 とアドバイスする。

 親が元気なうちはウォーキングなどの有酸素運動や筋トレを勧め、認知症予防のためにテレビを1日2時間以上見ないよう注意するなど、元気でいられるように応援するのも子の務め。親の健康が少し不安になってきたら、家の近くに引っ越してもらう「近居」を勧めるという。

「忙しい現役世代が世話の必要な親と同居をするのは大変。UR賃貸住宅の『近居割』といった制度もあるので、親が元気なうちにお互いが同居ではなくそばに移り住むことも考えるべき。親が要介護になったらなおさら同居は難しくなるので、親には将来高齢者住宅・施設に入ることも想定して必要な資金を蓄えておいてもらいましょう」

(編集部・山口亮子)

AERA 2017年1月23日号