これに対してプーチン氏はにやりと笑って「何が古いアプローチで何が新しいか、私は知らない」。安倍首相の言う「新しいアプローチ」など意に介さない、といった風情だった。

 12月7日、読売新聞と日本テレビのインタビューに応じたプーチン氏は「日本の友人たちが、(1956年に署名され、歯舞、色丹の2島引き渡しについて書かれている)日ソ共同宣言の枠組みの中にとどまっているとは言えない」と語った。安倍首相が依然として4島を求めており、それでは話し合いに応じられない、という考えを示唆していると言ってよいだろう。

 プーチン氏が態度を急に硬化させたのは明らかだ。そのきっかけになったとみられるのが、11月上旬に訪ロした谷内正太郎・国家安全保障局長の発言だ。複数の関係者によると、ロシア側から、将来日本に歯舞、色丹を引き渡した場合「米軍が基地を置くか」と聞かれて、「可能性はある」と答えたという。

 これは、プーチン氏にとってはまったく容認できない見解だ。ロシアが渡した領土に米軍が基地など置こうものなら、プーチン氏のメンツは丸つぶれだ。

 プーチン氏は大統領に就任直後、2000年9月に訪日した際、当時の森喜朗首相にも米軍基地が置かれる可能性について尋ねている。それほど気になる問題なのだ。ちなみに、このとき森氏は「そんなことは絶対にないよ」と答えていた。

 プーチン氏は12月16日の共同記者会見で日米安保条約に言及して、ロシア極東の海軍基地の能力に及ぼす影響を懸念しているという考えを表明した。

 安倍首相にとって今回首脳会談の唯一の「成果」らしきものは、北方領土での「共同経済活動」の実現に向けた協議を両国で始める、というプーチン氏との合意だ。だが、どちらの国の法律を適用するかをめぐって、両国は議論の入り口で対立しており、前途は多難だ。(朝日新聞モスクワ支局長・駒木明義)

AERA 2016年12月26日号

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駒木明義

駒木明義

2005~08年、13~17年にモスクワ特派員。90年入社。和歌山支局、長野支局、政治部、国際報道部などで勤務。日本では主に外交政策などを取材してきました。 著書「安倍vs.プーチン 日ロ交渉はなぜ行き詰まったのか」(筑摩選書)。共著に「プーチンの実像」(朝日文庫)、「検証 日露首脳交渉」(岩波書店)

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