●事実婚の夫婦が不利

 そもそも、なぜ「150万円以下」という数字になったのか。その過程はまったく見えてこない。民進党の岸本周平衆議院議員は、「当初の目的と真逆な方向に議論が進んでしまった」と指摘する。

「配偶者控除の見直しは、パートであろうと、単身者であろうと、就業形態で生じる不公平感をなくして中立性を目指したはずなのですが、配偶者控除で得する人を増やしただけで、女性の就労拡大に対してはマイナス。本当に支離滅裂です」

 配偶者控除に代わって導入しようとした「夫婦控除」は、事実婚の夫婦が不利になるといった批判が起こり、引っ込めてしまった。また、今回の見直し案では、世帯主の年収が1120万円を超えると控除額を段階的に減らして、1220万円で対象外とする。この場合、年収1500万円の専業主婦世帯では、年15万8千円の増税になり、約100万世帯が対象。現行の配偶者控除には、世帯主の年収制限は設けていないので「高所得者を優遇している」といった批判に対応した格好だ。

「世論に過剰に反応して修正するのは、まさに選挙対策」(岸本氏)という見方もある。

 一番の問題は、国民の生活に直結する大事な制度を与党だけで“密室”で議論していること。

「これは自民党案なのですが、12月中旬に正式決定したら、そのまま政府案になります。来年1月から始まる通常国会に法案が提出されると、衆議院の財務金融委員会での審議が始まります。そこでようやく与野党の協議ができるのです」(岸本氏)

 問題を呈したとしても、数の力で強行採決されてしまう恐れもある。

 順調に通過してしまうと、18年1月から施行される。国民生活にとって大事なことが“密室”で議論され強行採決で決められる。

 それが“アベ政治”だということを有権者は知っておかなければならない。(ライター・村田くみ)

AERA 2016年12月12日号