●SNSは“お茶の間”

 黒柳さんはこの言葉を長年、大切にしてきたという。井上さんもまた同じ思いだ。一緒に仕事をするディレクターがほとんど年下になってきた今、気になっていることがある。

「僕が若い頃は人と違うことをやらねばと言われましたが、今は人と競うよりとにかく面白いことをやろうという方針だから、やれることは広がったはず。なのに若手は、面白さよりも、うまくそつなくやることを目指すタイプが多いように感じます。もっといろんな挑戦をしてほしい。僕もそんな姿を見せていきたいと思ってます」(井上さん)

 NHKといえば、大河ドラマを忘れてはいけない。ポスター、告知イベントと、さまざまなPRを試みているが、若年層の支持が低いのが長年の課題だった。それを解消しつつあるのがSNSの存在だ。放送中の「真田丸」はツイッターのトレンド入りの常連。広報局戦略開発チーフ・プロデューサーの平岡大典さん(51)は「SNSは現代の“お茶の間”」だと言う。

「いろいろな情報を投入して盛り上げるのが我々の役目です」

 小日向文世さん演じる豊臣秀吉の陣羽織が「派手すぎww」と話題になれば、衣装の専門家にインタビューして解説記事を掲載するという地道な戦略だ。

 大河ドラマがこうしたSNSに力を入れるようになったきっかけは12年の「平清盛」だ。視聴率こそふるわなかったが、広報局の間では「ソーシャル大河」と呼ばれ、その年のツイッタートレンドのテレビドラマ部門1位を獲得。朝ドラ「あまちゃん」の「あまロス」「あま絵」現象も、実はSNS上の平清盛ファンの方が先行していたのだ。

「受信料払ってもいい」

「SNSでは番組の熱狂的でコアなファンを作ることを目指しています。最近注目しているのは声優さんやYouTube。こういうサブカルチャー的なものが大河のPRとして強いんです」と平岡さん。

 直江兼続役・村上新悟さんによる直江状の朗読ムービーには「これなら受信料を払ってもいい」と歓喜の“悲鳴”も。SNSによる視聴者層の広がりを示す調査結果も出ているという。

 絶好調にもかかわらず、局内で毎年議論になるのが「公共放送にドラマは必要なのか?」。前出の遠藤さんは、多様性を持ち、人生の最初から終わりまで楽しめるものを提供するのが、公共放送の役割だと考えている。

「その中に娯楽や物語というジャンルが絶対に必要です。私の息子がおなかすいた、眠いなど衣食住に関する言葉を覚えた次に『ご本読んで』と言ったのには驚きました。物語を読み、鑑賞するのは、人間のプリミティブな欲求の一つなんだと思います」

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