「小池知事が『空気』と表現したように、豊洲問題は、個人の責任を特定できない。プロジェクトはこうしたケースが多く、内部告発が機能するとは思えません。匿名性も大きな壁。宮城県知事時代にも県警OBから裏金に関する重大な内部告発があり、私は本人に会って内部文書も確認したが、県警は匿名の告発は信用できないと反論。抵抗を突破しきれなかった」

 公益通報者保護法では告発者の保護がうたわれているが、徹底されているとは言い難い。事実、15年3月に京都市の公益通報窓口に通報した男性職員の氏名が、窓口となった弁護士を通じて市側に伝えられた。この職員は停職3日の懲戒処分を受けたという。公益通報に詳しい中村雅人弁護士は「弁護士教育も必要」と語る。

「義憤にかられている告発者は、氏名の告知をいとわない態度を取ることもあるでしょう。しかし、通報者の立場や保護の必要性をわかっていない弁護士もいる。経験のある弁護士を選ぶべきで、間違っても知事、幹部職員の知己の弁護士など、安易な選定をしてはいけません」

 では、内部告発に頼らず、小池知事が望む「自己統治」を実現することはできるのだろうか。浅野氏は言う。

「情報公開を徹底し、常に外部からの厳しい目にさらすべきです。宮城県知事時代も、市民オンブズマンの指摘を端緒に数億円の裏金作りがあぶり出された。都合の悪い情報も外に出し、市民やマスコミの目にたえうる都政にすれば組織の規律は維持できるはずです」

 開かれた都政。言うは易しだが、越えるべき課題は多い。(編集部・作田裕史)

AERA 2016年10月17日増大号