なぜこれだけ速く強くなれたのか。記者が会見で問うと、「ずっと詰将棋を解いてきた。それで終盤が強くなったのかな」。

 詰将棋とは、相手の玉将を仕留める手順を考える問題のこと。これを読む力がないと、優勢のまま終盤戦に突入しても、玉将を捕まえ損ねて逆転負けという結果になりかねない。数十手、数百手先を見通す必要がある問題もあり、上達に欠かせない勉強法として古くから知られている。藤井さんが詰将棋を解く速さは有名で、難解な作品が多数出題される「詰将棋解答選手権」では、プロを押しのけて2連覇中だ。

●詰将棋派は近年まれ

 だが、近年は、序盤から積極的にリードを奪う将棋が主流で、その戦術の研究に比重を置く傾向が強い。急速に強くなった将棋ソフトを使って序盤の研究に励む棋士や奨励会員もいる。

 日本将棋連盟の会長を務める谷川九段は、詰将棋で磨いた終盤の強さで知られ、「光速の寄せ」の異名をとる。創作の面でも有名で、作品集も出している。

「昔は勉強法が少なかった。今はネットで対局ができて、プロの公式戦の中継も見られる。こうした環境の中、詰将棋で強くなった人は珍しいのでは」(谷川九段)

 最年少棋士にかかる期待は大きい。名人戦で挑戦者になったこともある森下卓九段(50)は、早くから藤井さんに注目してきた一人だ。3月には、藤井さんと杉本七段を東京に招き、愛弟子の増田康宏四段(18)らと共に研究会を開いた。

「彼には天性の才能がある。将棋界には、羽生三冠の次のスターがいない。『何としても勝ちたい』という気持ちでさらに強くなり、将棋界を盛り上げてほしい」と力を込める。(朝日新聞文化くらし報道部・村瀬信也)

AERA 2016年9月19日号