群馬大病院は有害事象が起きた場合に報告するインシデント報告制度があり、10年9月からは、術中、術後に予期せぬ有害事象が起きた場合に届け出る「バリアンス報告制度」も導入している。P元教授は、08年度から院内の医療業務安全管理委員会の委員を務めていたにもかかわらず、A医師から報告を受けていた18例のうち、1例しか報告していなかった。A医師は、バリアンス報告をしなかった点について「最終的には教授が報告するかどうかを決めていた」と説明している。

 もうひとつ大きな問題がある。治療方針や術式を決める症例検討会が毎週月曜日の夕方に開かれていたが、P元教授は半分程度しか出席していなかった。

 国立病院の院長経験者で技術認定取得医でもある、ある医師はこう言う。

「同じ医師によるミスは、症例検討会で術前、術後の経緯を検証すれば明らかになるはず。指導する立場の教授なら、全症例を把握するのは当然で、都内の大学病院なら考えられない。1県1医大というのんびりした環境で育まれたのだろう」

●1/3の陣容で術数維持

 群馬大病院の外科は第1外科(当時)と、P元教授を頂点とした第2外科に分かれていた。臓器別で分かれているわけではなく、同じ臓器を扱うライバル関係にあった。

 注目すべきは、その陣容と手術件数だ。第1外科で肝胆膵外科を担当するのは3~6人で、8年間で589件の手術をこなしている。一方の第2外科で同じ領域を担当するのはA医師含めて1~2人。同じ8年間の手術件数は573件にのぼる。このすべてにA医師が関わっていたわけではないが、3分の1の陣容で手術件数を維持すれば、しわ寄せが来るのは当然だった。

 この点について、報告書では「潜在的な競争意識のもと、それぞれ独自に診療を行っているのが実態であった」と分析したうえで、「弊害が長年にわたって改善されないままだった。このことが18事例の発生と、その発覚の遅れにもつながった」と結論づけている。

 04年の国立大学の独立行政法人化も追い打ちをかけている。大学病院も経営努力が求められるようになり、競争が激化していくなか手術件数の増加は、至上命題となっていく。

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