7月末に発表された群馬大病院での医療事故調査報告書。「旧第一外科」と「旧第二外科」の競い合いが弊害の一つだったことが記されている(撮影/写真部・小原雄輝)
7月末に発表された群馬大病院での医療事故調査報告書。「旧第一外科」と「旧第二外科」の競い合いが弊害の一つだったことが記されている(撮影/写真部・小原雄輝)

 群馬大学附属病院で18人が死亡した医療事故の医療事故調査報告書。読み解くと、特定の医師の技量不足もさることながら、組織の問題が見えてくる。大学病院における経営重視の弊害が根底にはある。

 群馬大学医学部附属病院で起きた同一医師による18例の手術ミスを検証する医療事故調査報告書を読み解くと、根本的問題は、執刀したA医師(報告書の呼称に準ずる)よりも、指導的な立場にあったP元教授(同)ではないかと思えてくる。

 6人で構成された第三者による医療事故調査委員会は、当事者だけでなく病院関係者や遺族らから聞き取りを続け、35回、計210時間以上の審議を経たうえで報告書を作成、7月末に公表した。A医師の未熟な手術もさることながら、報告書の随所に「P元教授」への苦言と批判がつづられ、ときには「倫理にもとる」など厳しい言葉で指弾している。

 まず驚かされるのは、P元教授がA医師の手術で死亡例が相次いでいることを、報告を受けて把握していたことだ。A医師の術後死亡例は、開腹手術による肝切除で2009~12年度に10例、腹腔鏡による手術で10~13年度に8例の計18例あった。

 09年度に死亡例が続発したことから、P元教授は同年10月ごろに高難度の肝切除術を控えるよう、A医師に指示している。しかし、12月には再開し、膵臓手術を含めて3人の死亡例が相次いだ。このため、再び手術を休むようアドバイスしたが、一定期間の休止の後、P元教授の承認を得て再開している。

●部下の進言退ける

 さらにA医師は10年末から新たに腹腔鏡による肝切除術を始めて1年間で4例の死亡事故を起こしている。A医師の所属する第2外科(当時)の医師から、責任者であるP元教授に対して「危険なので中止させたほうが」との進言があった。

 医局のなかで上司にあたる教授にこうした苦言を呈することは勇気のいることだ。しかし、P元教授は進言を退けている。

 その理由についてP元教授は、調査委員会のヒアリングに対して「A医師はよく勉強し、技術訓練も実施している」「A医師への紹介がほとんどで院内外の医療者からの信頼も厚いと考えていた」と述べている。患者の命が相次いで奪われているというのに、だ。

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