100床当たりの手術件数をみると、群馬大病院は全国45の国立大学附属病院のうち、10年度が1位、11年度が3位、12~14年度は2位と、トップクラスの術数を維持している。

 手術件数は、11年から手術部長を兼務したP元教授の業績にもつながる。医学部の70年誌に、P元教授は「手術数の増加は目覚ましく、20年前の1993年から2012年で手術数が2倍となっている」と誇らしげに書いている。

●「倫理にもとる」

 未熟ながらも深夜まで手術数をこなすA医師は、いわば第2外科の業績を支える働き頭だったとも言える。P元教授がA医師を評価する理由は、こんなところにもあったのかもしれない。

 さらに驚くべきことがある。

 P元教授が12年に「The KITA KANTO Medical Journal」に投稿した論文だ。

「教室で行っている腹腔鏡下肝切除術」と題して、10年11月から11年10月までに実施された群馬大病院での症例を紹介している。20例中1例が胆汁漏れから肝不全になって死亡し、誤嚥性肺炎も1例あったものの、「通常の開腹手術でも起こる合併症であり、特に開腹手術に比べて多いとは考えてはいない」と記している。

 だが、これらの20例の手術にP元教授は立ち会っていない。報告書によると、電子カルテの手術実施欄にも、手術記録にもP元教授の名前があるが、「実際にはほとんど参加していなかった」という。つまり、参加していない手術実績を、自分の論文として仕立てていたことになる。

 さらに大きな問題がある。論文で示された期間での腹腔鏡手術による実際の死亡例は4例を数える。論文では、それが省かれたうえで「開腹手術に比べて多いとは考えてはいない」と結論付けている。

 部下の医師の実績を拝借して、なおかつ死亡例を省略して論文をまとめる。これでは、P元教授がA医師を利用していたと受け取られても仕方がない。

 報告書では、「P元教授が参加していないにもかかわらず、術者あるいは指導的助手として参加したかのように記録されていたことは、実態と異なる記録であり不適切である」と評された。死亡症例数が事実と異なる点についてはさらに厳しく、「このような論文を教室の業績として学術雑誌に発表していることは、医学者としての倫理にもとるといえる」と記している。

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