●P元教授には退職金

 A医師は、報告書が公表される直前の7月29日付で懲戒解雇相当(昨年3月に退職)、P元教授は諭旨解雇の処分を受けた。A医師には退職金は支払われないが、P元教授には支払われるという。

 大学病院の経営上の方針から手術件数を増やし、医局間の潜在的競争意識から情報共有もなされず、そのしわ寄せが脆弱な陣容を切り盛りしていたA医師にのしかかっていた。P元教授は、そのすべての場面にかかわるキーパーソンであったことは間違いない。

 経営中心の運営を余儀なくされ、大学や医局の名誉や業績が優先された場合、置き去りにされるのは、いつも患者だ。(ジャーナリスト・辰濃哲郎)

■群馬大病院を巡る医療事故の経緯

 群馬大病院では、2009~14年度に男性医師の肝臓手術を受けた18人が死亡した。執刀したのは、いずれも旧第2外科助教の40代男性医師(A医師)だった。14年11月に病院が会見して明らかにした。

 同大から依頼を受けた医療事故調査委員会は今年7月30日に、報告書を公表。監督する立場の診療科長だった男性教授(P元教授)が適切な対応を取らなかったなどとした。

 また、日本外科学会の調査では、A医師が所属していた旧第2外科の肝臓手術の死亡率が全国平均の約10倍だったこともわかった。

 これらの死亡事故を受け、厚生労働省は、高度な医療を提供できる特定機能病院の承認を昨年6月に取り消した。

AERA 2016年9月19日号