女性は教員採用試験に数年間は挑戦したものの、勉強と仕事の両立は厳しかった。毎年、任用の話がくるのは現場で必要とされている証拠なのに、試験で何度も落とされるとバカバカしくなる。長男(1)が生まれてからは、子育てに負担がない程度に臨時的任用で仕事をつなぐのがベストだとも感じる。それでも臨時仲間が合格したと聞くと、「あの人は退職金がもらえるのか」と、心がざわつく。

 公立の場合、自治体の教員採用試験に合格すると「教育公務員」、いわゆる正規の教員として採用される。臨時的任用教員(常勤)や時間講師(非常勤)として実務経験を積んだうえで採用試験に挑戦する人もいる。採用人数は子どもの数によって増減し、ボリュームゾーンである今の50代が、これから一気に定年退職を迎える。東京都教育庁人事部選考課長の落合真人さんはこう話す。

「毎年2千人規模でベテラン教員が退職していくなかで、下の世代の管理職をどう育てていくかが課題です」

●管理職試験は「1倍」

 学校は、校長と教頭・副校長以外の教員は横並びの「なべぶた組織」と呼ばれてきた。学校教育法の改正により、2008年度からは「主幹教諭」などの役職が生まれた。東京都は学校をより組織的に機能させるため、主幹の下に「主任教諭」を独自に新設。ただ、主幹も主任もあくまで肩書で、実際の管理職は副校長以上だ。

 冒頭の女性のように、臨時的任用の場合には長期的な見通しを描けないのはもちろん、正規の教員でもキャリアを計画的に考えている人は多くはない。

 アエラが実施したアンケートでは、教員としてのキャリアのゴールに副校長や校長、教育委員会幹部といった管理職を挙げた人は少数派だった。

「定年まで生徒の学力を伸ばすことに尽力したい」

「再任用の制度を利用して体力が続く限り授業をしたい」

 など、「生涯現場」を貫きたいという意見が目立った。そういえば、学園ドラマの主人公の金八先生も、3年B組の担任として定年退職した設定だ。

 東京都では、副校長への登用を想定した管理職B選考の倍率が、00年度は小学校3.2倍、中学校12.4倍だったが、15年度は小中ともほぼ1倍。教員が少ない世代ということもあるが、受験資格があるのに受験しない人が増えている。教育デザイン研究所代表理事で新宿区立中学校長などの経験がある吉田和夫さん(63)は指摘する。

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