東京都の場合、都が採用している小中学校の教員は、3~6年ごとに異動がある。都内を12ブロックに分け、若手は異なる3ブロックの学校を転々とするのが基本。人事には校長、市区町村教委、都教委が関わるため、特別な事情がない限り、本人の希望は通りづらい。こうした背景のもと、キャリア意識を高めるために官製研修を充実させるのは苦肉の策ともいえる。

●自分より子どもの将来

 まもなく定年を迎える公立中の女性校長(58)は、新卒で正規の教員になり、教育委員会の指導主事を経て、副校長、校長という「エリートコース」をたどってきた。

 30代の時、教員研究生として1年間、学校を離れ、研修センターでカリキュラムの開発や実習にあたった。講師の指導主事から直接、授業のやり方を学んだ。その恩返しをしたくて、40代で指導主事に。教育委員会の職員に「先生にも1人1台パソコンって必要なんですか?」と聞かれると、

「もちろん必要です!」

 と答え、行政と学校現場をつなげる役割を担った。現場の教員が仕事をしやすくするために、役に立てるのがうれしかった。

「まわりが私を指導主事にしてくれたと思っています」

 だから校長になってからは、学校全体を見渡すことができる教員を評価するようにしている。例えば、担任の指導方法に子どもが不満を持った時、その担任をかばいながらも子どもを納得させられるような気配りができるかどうか。

「一人で問題を解決できる時代ではない。生活指導や少人数教育などに教員が力を合わせて取り組めたとき、校長としてのやりがいを感じます」

 自身のキャリアを語る以前に、子どもの将来を考えるという点では、管理職もヒラ教員も非正規も、同じなのかもしれない。

 冒頭の臨時的任用の女性教員は、1年未満で児童と別れを迎えることが多い。最終日、名残惜しそうに手紙を差し出してくる子どもたち。

<せんせいのおかげで おんがくが すきになったよ>

 たくさんの「夢」を見ることができる。だから教師を続けていけるのだ。(編集部・小林明子)

AERA 2016年8月22日号