「競争がなければ管理職の質が悪くなり、より魅力がなくなる。だが、40代、50代でも担任にしがみついていていいのか。日進月歩で教育が変わるいま、日々の指導に振り回されるだけでなく、全体を長期的に見通せる人材を養成しなければならないはずです」

 教員が管理職になりたがらない原因の一つは、授業や指導以外の負担が増えることを敬遠するため。教頭・副校長は事務作業や保護者対応に追われ、激務だ。06年に文部科学省が公立の小中学校を対象に実施した「教員勤務実態調査」によると、教頭・副校長の平均残業時間は月約63時間で、教諭より約21時間も多かった。

●異動希望は通らない

 都内の公立中の50代の校長は、校長職候補者選考に通ってからも、定年退職者の再任用で校長ポストに空きが出ない一方で副校長のなり手がおらず、副校長のまま3年据え置かれた。ようやく校長になってからも、副校長が抱える雑務を手伝っている。

「副校長を倒れさせてはいけないから、必死です」

 都は教員の標準職務遂行能力として「学習指導力」のほか、「生活・進路指導力」「学校運営力」「特別活動・その他に関する能力」を定め、事務作業や保護者対応も評価対象にしている。それでも、授業で認められてナンボというのが「教員魂」なのか。

 都立高校の男性教員(56)は、授業の手腕が評価されて昨年度、「指導教諭」の役職に就いた。マネジメント職である「主幹教諭」と同じ職階の、いわば「プロ教諭」だ。

「教科教育のエキスパートとして教員人生をまっとうしたい。生徒が僕を踏み台にして乗り越えてくれたら本望で、社会全体の知性を高めることにも貢献したい」

 とはいえ、多くの教員にとっての悩みの種は、学校間の異動があるため計画的にキャリアアップしづらいことだ。25歳で正規の教員になってから現在3校目に勤めている男性教員(45)は、校長に異動希望を伝えても、

「教育委員会にはちゃんと伝えているから」

 の一点張りで、やきもきした経験がある。

「生徒の学力や指導方針が異なる学校に異動できると経験を積めるのに。再任用者の配置に手一杯で、若手の異動が滞留しているとも聞きます」

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