「社会的養護が必要な子どもたちが安定した家庭で育つことが第一であり、それにふさわしい養親であるかが大事。不妊治療の傷が癒えないまま、特別養子縁組をしようとする方もいますが、ポジティブな養育にならないこともあります。養子縁組でなくても、週末だけ里親になるという選択肢もあります」

 赤尾さんによると、養親希望者のうち、書類審査、面談、家庭調査などを経て子どもの委託に至る夫婦は、決して多くはないという。

「養子縁組という選択肢を、不妊でなくても、もしくは不妊治療を始めるときには視野に入れてほしい。不妊治療の助成金は女性が43歳になるまで。養子縁組は研修を受けたり、いろいろな審査手続きをしたりするのに、何カ月もかかります。不妊治療後に体の回復を待って手続きを始めたら、すぐに45歳です。養親の年齢を45歳未満と区切っている団体も多いので、判断が遅いと、実子も養子もかなわないということになってしまいます」(赤尾さん)

 結婚前から決めていた夫婦もいる。コウジさん(38)とサトコさん(48)は、結婚3年目。1歳8カ月の長男と11カ月の長女は、いずれも民間団体から特別養子縁組で迎えた子どもだ。最初から養子と決めていた理由を、コウジさんはこう語る。

「妻の健康状態と年齢です」

●完璧にと気負わない

 サトコさんは、5年前に乳がんが発覚。幸い、早期発見で大事には至らなかったが、今でもホルモン療法を続けている。さらに、結婚時のサトコさんの年齢は45歳。自然妊娠は諦めざるを得なかった。

 建築士として働くコウジさんは、児童養護施設の設計にも携わった経験がある。社会的養護が必要な子どもが数多くいることを知り、血縁はなくても、家庭で育てられる人が子どもを育てるべきだと強く感じるようになっていた。だからこそ、

「何か大きな決断をしたということではなく、ごく自然に養子の話になった」(サトコさん)

 結婚してすぐ児相に出向き、里親登録の申請をした。民間団体の情報収集も始めたが、当時は婚姻期間が1年未満だったこと、双方に離婚歴があることや年齢がネックとなり、申請を受け付けられないこともあった。

「夫婦の結束が弱いと判断されたのかもしれません。でも、離婚経験があったから、養子縁組に目が向いた部分もあると思っています」(コウジさん)

 最終的には、紹介してくれる団体に巡り合え、養子縁組が成立。サトコさんは会社で「実は僕も養子です」と声をかけられたこともある。夫妻は「養子が身近になれば」と願っている。

「救済事業とか、大げさに考えず、もっと普通に、僕たちは子どもを持ちたいと思っていて、一方で家庭を必要とする子どもがいる。育てられる家庭が育てればいいんです」(コウジさん)

 前出の篠塚さんは言う。

「養子を迎えたから何もかも完璧にしなければと気負わなくてもいいと思います。社会的養護が必要な子たちに自分たちの家庭で育ってほしい、その子どもたちの幸せが夫婦の幸せであると考えられる人なら、立派な養父母さんになれるはずです」

(文中カタカナ名は仮名)

(編集部・作田裕史)

AERA 2016年8月8日号