「つらそうだったし、不妊治療はやめてよかった。僕は2人だけの人生も考えていたけれど、妻はいろいろと調べていた」

 45歳という年齢、仕事を持っていることが障壁となったが、前述の「ベビーライフ」は申請可能なことがわかった。その後は急展開。今年2月に本登録を終えると、4月には長女(3カ月)を迎えることが決まった。

 大変だったのは、仕事の引き継ぎ。委託決定から長女が家に来るまでわずか7日。周囲も、妊娠しておなかが大きくなる姿を見ているわけではないため、急な育児休業に驚かれたという。ただ、事前に社長には伝えていたこともあり、職場の理解は早かった。契約が残っている企業に出向かなければならないときは、オサムさんが仕事を休んでサポートし、乗り切ったという。

「この頃が一番大変。初めて子どもを抱っこした時も、感動するよりも、明日はあれしなきゃとか、この小さな命を守るためにすべきことを整理するので必死でした」(リョウコさん)

 特別養子縁組ならではの悩みもある。まだ家庭裁判所から許可が下りておらず、戸籍上は「生みの親」の籍に入っているので郵便物が届かない。予防接種も役所から知らせは来ず、自分から出向くしかない。その際に養子だと言うと、決まって数時間は待たされるという。

「前例が少なすぎるんですね。夜泣きなど育児の大変さは想定内でしたが、役所の手続きがここまで疲れるとは思いもしませんでした」(同)

●判断遅いとかなわない

 それでも、長女を迎えたことで人生の風景は変わった。

「きついことよりも、楽しみのほうが何倍も大きいですから。仕事を持つ女性でも養親になるのが当たり前になっていくといいですね」(リョウコさん)

 ひとつ留意すべきは、法的には特別養子縁組は「子どもの福祉」が目的で、「子のいない夫婦のため」の制度ではないということだ。特別養子縁組の支援などをする「ベアホープ」の赤尾さく美さんは言う。

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