居酒屋や牛丼店といった外食チェーン店をはじめとして外国人アルバイトなしでは回らない職場は多いが、そんな店員の多くは「学業」が本来の目的である留学生だ。90年代から受け入れが拡大したブラジルやペルーの日系人の扱いも迷走した。自動車や電機関連の工場で働く人が多かったが、08年のリーマン・ショックを機に失業が相次ぐと、定住者向けビザを出して受け入れていたにもかかわらず、政府は渡航費を支援して帰国を促した。

 その場しのぎの受け入れ政策はもう限界だ。どう変えればいいのか。

「まず、国内だけでは必要な働き手をまかなえないのはどんな職種で、どのくらいの人数が必要なのか、客観的に把握できるようにすることです」(日本総研の野村氏)

●「二極化」から脱却せよ

 たとえば英国には雇用主が所定のルールに沿って一定期間、国内で求人広告を出し、必要な人材の確保が難しいことを証明すれば外国人技術者などを採用できる制度がある。このように客観的なデータに基づいて外国人受け入れの必要性を説明できなければ、多くの人が納得できる制度にはできないだろう。

 そのうえで野村氏は次のように提言する。工場や建設現場の監督といった「中間技能人材」も必要に応じて受け入れられるようにする。同時に技能実習制度を見直し、単純労働者から中間技能人材にスキルアップしたうえで日本で働き続ける選択肢も用意する。こうして高度人材と単純労働者の受け入れにほぼ二極化している今の制度を再構築し、必要とされる分野に人材がきちんと供給されるようにする──。

 きれいごとだけでは済まない面もある。言語や習慣の違う隣人の存在は、職場だけでなく、生活の場である地域社会でも摩擦を生むことがある。外国人労働者に門戸を広げれば、家族を日本でつくったり母国から呼び寄せたりして定住する人も増えるのが自然だ。

 移民家庭の出身者が関わるテロ事件が続発し、シリア難民が大量に流入している欧州では、排外主義を掲げる右派・極右政党が勢力を伸ばしている。英国の国民投票で欧州連合(EU)離脱派が多数を占めた大きな要因も、移民増加への警戒感だった。

●社会統合に国も投資

 外国人を孤立させれば、周りの住民との間で相互不信が深まるばかりだ。そこで日本の言語や習慣について学ぶ機会を提供し、地域社会との接点をつくる「社会統合政策」が重要となる。今は一部の自治体の独自の取り組みに頼っているのが実情だ。国がきちんと方針を打ち出し、お金も投じる必要がある。

 国士舘大学の鈴木江理子教授(移民政策)はこう訴える。

「統合政策に一定のコストがかかることは当然です。これまでの政策の大きな問題点は、単なる『労働力』ではなく『人間』を迎え入れるのだ、という認識が不十分であることです」

(編集部・庄司将晃)

AERA 2016年7月25日号