実習生の寮の部屋に乗り込んだ日本人社員はこう怒鳴りながら、無抵抗だったこの男性を蹴りつける──。

 実習生として来日した男性は昨年8月、現場で働き始めた。ほかの実習生5人とともにとび工の技能を学ぶはずだったが、研修の機会さえなく、命じられたのは配管を埋める穴を掘ったり資材を運んだりといった雑用ばかり。作業がうまくできないと、日本人社員たちから「クビだ」「バカ」といった暴言を浴びたという。

 実習生6人は、6畳一間を薄いベニヤ板で三つずつに区切った2部屋をあてがわれ、疲れて帰っても足を伸ばして寝ることさえ難しかった。休日出勤の割り増し分の賃金や残業代はきちんと支払われず、1カ月間全く休みなしで働かされた仲間さえいた。

 こうした仕打ちに耐えかねた男性たちは今年2月、知人を介して全統一労働組合(東京都台東区)に相談。支援を受けながら、6人分で計数百万円にのぼる未払い賃金や、暴行に対する慰謝料などを求めて会社側と2カ月ほど交渉し、解決金支払いや会社側の謝罪を条件に和解が成立した。その後、取材に応じてくれた男性を含む6人全員がベトナムに帰国した。

 市民団体「移住者と連帯する全国ネットワーク」の鳥井一平代表理事はこう訴える。

「日本はすでに多民族・多文化共生社会です。外国人労働者なしでは成り立たない産業も多い。この現実を直視しない政策のせいで、現場では矛盾が生じているのです」

●酷使されがちな実習生

 すでに述べたとおり、国内では100万人単位の外国人が働いており、事実上「単純労働」を担っている人がかなりの割合を占めるとみられる。

 政府の建前と現実の矛盾が最もはっきり表れているのが、93年に始まった技能実習制度だ。本来の目的は「途上国の人材育成による国際貢献」。野原産業とその取引先のように時間と費用をかけて実習生を育て上げる事業者がある一方で、業種を問わず「低コストの単純労働者」として酷使し、賃金未払いや長時間労働の強制といった問題を起こす事業者は後を絶たない。

 実習生にも労働基準法や最低賃金法が適用されるが、「実習先に不満があっても他社へ自由に移れないなど、実習生がきちんとした『労働者』として扱われないため、対等の労使関係が成立していない」(鳥井氏)ことが根っこにある。それでも政府は、実習期間を最長5年に延ばす法案を国会に提出するなど受け入れを拡大する方針だ。

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