「安倍政権は単純な対米従属ではありません。集団的自衛権の行使容認も自主路線に向けた態勢強化が本音で、『米国の要請』というのは、国内政治上の目的達成のための手段という位置付けだと見ています」

 成蹊大学の遠藤誠治教授(国際政治)はこう解説する。

 国家安全保障会議(NSC)の創設や特定秘密保護法の制定、集団的自衛権の行使容認(安保関連法制の制定)といった安倍政権が進めてきた一連の安全保障政策には、いずれも「米国の要請」が背景にあったのは否めない。

 例えば、07年に日米が締結した「軍事情報包括保護協定」で、米国は日本側に提供した機密情報に「米国と同等の保護」を求めた。これに応じて整備した国内法が特定秘密保護法、という流れになる。

●欧米と関係悪化のロ大統領とも会談

 ただ、「米国の要請」という側面だけに注目すると、安倍政権の本質を見誤る、と遠藤教授は指摘する。安倍政権は「対米基軸」という、世論もマスコミも歓迎する路線で表面を飾りつつ、政権の支持基盤や外交行動は対米自立の指向性を持つ、というのだ。安倍首相が、クリミア併合で欧米諸国の批判を浴びるロシアのプーチン大統領と首脳会談を重ねるのも、自主路線の一端と受け止められるという。

「国家主義的な『美しい国』を確立するのが、安倍首相の政治の核だと思います」(遠藤教授)

「美しい国」とは何か。あえて一言で言えば「正しく軍隊がもてる国」であり、こうした未来像のための道具の一つが、集団的自衛権の行使容認ではないか。しかもそれは、国家が大事だという抽象的な観念が優先される社会で、個々の人間が大事だという視点を欠く国家像ではないのか、と遠藤教授は懸念を深める。

 中国海軍は6月15日には、鹿児島県の口永良部島周辺の日本領海内で艦艇を航行させた。東シナ海で軍事的挑発をエスカレートさせる中国に対し、短期的に優先すべきは、海と空での偶発的な軍事衝突を防ぐ「危機管理メカニズム」の構築だということは、言うに及ばないだろう。今こそ日本の外交力が試される時のはずだが、十分機能しているようには見えない。その理由は、中国が一方的に軍事的緊張を高める「異常な国」だから、なのだろうか。

 琉球大学の我部政明教授(国際政治)は、安倍政権の中国政策をこう説明する。

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