戦後70年の節目に合わせて米議会で演説する安倍首相。歴史認識を不安視する米政権に配慮してか、両国の和解を強調した/2015年4月 (c)朝日新聞社
戦後70年の節目に合わせて米議会で演説する安倍首相。歴史認識を不安視する米政権に配慮してか、両国の和解を強調した/2015年4月 (c)朝日新聞社

 集団的自衛権の行使容認、2度にわたる消費税率引き上げの延期……歴代内閣なら、在任中に一つ成し遂げられれば「御の字」の重大政策を次々と断行してきた安倍政権。

 発足3年半の中間評価を下すべき参院選を前に、その政策を検証する。

「エスカレートは避けたいが、万が一、領海に入った場合はそれ相応の対応をする」

 6月9日未明、中国海軍の艦艇が尖閣諸島の接続水域に入ったのを受け、自衛隊の河野克俊統合幕僚長はこう強調した。これまで中国公船の領海侵入はあるが、軍艦艇が尖閣周辺の接続水域に入るのは初めて。軍事衝突が現実味を帯びる、まさに危機の一歩手前といえる。

 日本政府はどう対応したのか。

 安倍晋三首相は、(1)不測の事態に備え関係省庁が緊密に連携して対処する(2)米国をはじめ関係諸国と緊密な連携を図る(3)警戒監視に全力を尽くす──よう指示した。最終的には、「米国」との連携が頼みの綱、という内実が浮かぶ。

 それを裏付けるかのように、安倍首相は同日の街頭演説で、中国海軍の動きを踏まえ、安全保障関連法の意義をこう訴えた。

「日本を守るために日本と米国がお互いに助け合うことができる同盟になった」

 昨年8月の安保関連法案をめぐる国会審議でも、安倍首相は随所で「中国の脅威」を挙げ、法案成立に理解を求めた。中国の軍拡路線に対応するには、米軍の「関与」を引き出す必要がある。集団的自衛権の行使容認はその切り札との位置付けだ。

●「米国の要請」を錦の御旗に突破

 では、今回の中国海軍の動きについて、米国政府はどんな反応を示したのか。

 米国務省のトナー副報道官が、会見で言及したのは従来見解の繰り返しだった。つまり、尖閣諸島の主権については「特定の立場を取らない」が、日米安保条約の適用範囲である、と──。

 そもそも、2015年に改定された「日米防衛協力のための指針」(ガイドライン)では、尖閣諸島などの奪回作戦を担うのは自衛隊だとされており、米軍の役割は自衛隊の支援や補完に過ぎない。現実問題としても、尖閣諸島をめぐって中国との開戦に踏み切ることを、米国の議会や世論が許容するとは到底思えない。

 安倍首相はじめ政府の外務・防衛当局が、こうした「現実」を知らないわけがない。安倍政権の対米政策の本音はどこにあるのか。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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