「米国の政策が相当揺れている中、その米国に一生懸命に合わせようとしているのが安倍政権の姿です」

 米国では09年、リベラル的な政策を掲げる民主党のオバマ大統領が世論の高い支持を受けて誕生した後、保守派勢力が巻き返しを図り、10年と14年の中間選挙で共和党が勝利。連邦議会は上下院とも野党が多数派を占めている。このため、オバマ大統領が掲げた政策をそのまま実現するのは難しい状態で、議会と調整を図りながら国内外の課題に対応することを余儀なくされてきた。

 対中政策も中国の出方を見定められず、世界秩序を米中の「G2」が、補完し合いながら管理していくというような演出をしたかと思えば、南シナ海情勢をめぐって一転、関係にきしみが出ている。

 こうした米国政府の「揺れ」に、安倍政権も無縁ではない。

 12年の政権発足当初、安倍首相の歴史修正主義的な言動について、米政界や米メディアは警戒を隠さなかった。

「それが一転したのが、積極的平和主義と称する、定義のはっきりしない外交政策でした」(河野氏)

 積極的平和主義とは元来、貧困や差別といった構造的暴力のない状態を定義したもので、ノルウェーの平和学者、ヨハン・ガルトゥング氏が提唱した。この言葉を安倍政権は、自衛隊の海外任務の拡充という意味合いで使い出した。
 一方米国は、日本が言う積極的平和主義を、米国の世界戦略に従って海外での軍事行動も辞さないという日本の政策変更であると都合よく解釈し、安倍政権を後押しした。そのピークが昨年4月の安倍首相の米議会での演説だった、と河野氏は指摘する。

「これにより、安倍政権の路線は決定的に米国によって固定化されました。Uターンが利かなくなったのです」

 米議会演説で安倍首相は、国会に上程もしていない安保関連法制について「法案の成立を(15年)夏までに必ず実現します」と約束した。これが、その後の安倍政権の政策スケジュールを縛ったのは間違いない。

 河野氏は日本外交の行方をこう懸念する。

「私が最も不安に感じるのは、米中という2大国が国際政治を動かす状況にある中、今日の安倍政権のように日本の立場が米国に偏ってしまえば、全て米国が決めた通りに従わざるを得なくなるのではないかということです」

●「この道しかない」危うい外交路線

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