すでに数回、表紙を撮影済み。撮影場所に現れる蜷川実花はいつも自然体で構えることがない。だから被写体も構えない(撮影/平岩紗希[LUCKYSTAR])
すでに数回、表紙を撮影済み。撮影場所に現れる蜷川実花はいつも自然体で構えることがない。だから被写体も構えない(撮影/平岩紗希[LUCKYSTAR])
AERA2016年4月18日号 表紙の渡辺謙さん
AERA2016年4月18日号 表紙の渡辺謙さん

 4月18日号からアエラの表紙の撮影を担当する写真家・蜷川実花。いま、日本で最も著名で最も人気のある写真家の一人は、アエラの表紙を舞台に、何を撮ろうとしているのか。

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 2009年に私がアエラの表紙の被写体としてオファーをもらったとき、「ついにアエラの表紙に!」なんて、実家に電話して喜んだのを覚えています。
 
 22歳のときにセルフポートレートを撮ることからキャリアをスタートして、映画監督をしたり、アーティストのプロモーションビデオを撮影したり、いろんな活動をしてきたけれど、ずっと「写真家である」ことに強いこだわりがありました。

 それが40歳を過ぎたころから、「写真家なのだからこうあらねばならない」という思いが薄まってきて、少し肩の荷がおりた。ちゃんとしたものを作っていれば、何をやっていてもいいんだ、という自信がついたと言えばいいのか……。

 そうやって自分自身が落ち着いてきた分、意識していないと「新しい自分」に出会いづらくなってきているとも感じています。仕事って、経験が積み重なってくるとある程度のことはねじ伏せて、人に見せられるくらいのレベルのものは作ることができてしまうから。

 そういう意味で、アエラの表紙を担当するのは私にとっても挑戦なんです。「毎週」撮るということは、得意なことも得意でないことも必ずやっていかなくてはいけないということ。キラキラした女の子やイケメンの男の子を撮っている写真家、というイメージで見られることが多かったし、実際そういう仕事もたくさんあったけれど、アエラの表紙では、人前に出ることが仕事ではない方や自分よりはるかに年齢が上の方も撮ることになります。

 ポートレートは写真の中でも基本中の基本。だからこそ、力量が試される。写真家がどんな姿勢でカメラに向かったか、現場で被写体とどんな関係性を作れたかがすべて写り込みます。写真家の腰が引けていたら腰が引けた写真になる。びっくりするくらい感情が写ってしまう。

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