●情報共有がない縦割りの対策

保坂 横浜市が待機児童ゼロを達成した13年度の翌年、いくつもの政令市で突然ゼロになった。数え方を変えたことが大きな要因。厚生労働省に統一するよう申し入れたが、「自治体の判断で」と言われてしまった。

駒崎 事業者は、待機児童が少ない自治体では開園する必要性がないと判断する。つまり待機児童数を過少に発表することは事業者の参入意欲を減退させ、保育園が増えず、結果的に待機児童が増えるということになります。

保坂 待機児童が0~2歳児に集中していることも課題。認証保育所や自治体独自の保育室などが頼みの綱ですが、15年度に始まった子ども・子育て支援新制度では、認可に移行しない施設には支援がない。緊急的な受け入れ先となる認可外施設に対しては、国に財政措置をしてもらいたい。

駒崎 新制度では、0~2歳児を対象とする小規模保育施設が認可されるようになった。現在1655カ所。認可保育園ほど物件を探すのは難しくないのにそれほど増えないのは、規制に阻まれるからです。例えば、東京都の建築物バリアフリー条例が小規模保育施設にも機械的に適用され、大人が車椅子で利用できるトイレの設置が義務付けられたりする。マンションだと大規模改修ができないので、小規模保育を実施できなくなってしまうわけです。「だれでもトイレ」の設置が子どもの命にかかわる規制とは言えないですよね。こうした不条理な規制は通達1本で除外できるので、なくしてほしい。

保坂 こういう例もあります。区長に就任した11年度、家庭的保育は区内3カ所しかなかった。厚労省のガイドラインでは、例えばURの賃貸住宅でもできるはずだったが、消防署から「保育園なのに排煙装置が設置されておらず違法だ」と指摘された。厚労省と国土交通省、消防庁の3者から話を聞くと、3分で決着がついてOKとなりました。保育園に関する制度が、総務省・消防庁、建築基準法を所管する国交省に共有されていなかった。そういう隙間みたいなものが結構あると感じます。

駒崎 厚労省が所管する保育園のことなんて、国交省は一切わからない。そこをつなぐ細かい動きをする人もいない。縦割りの省庁を超えて調整するためのラウンドテーブルが必要です。

山尾 そこの横串を刺していくのは、私たち政治家の役割ですね。党の「待機児童緊急対策本部」には、議員と厚労省の担当者、保育園に申し込んだのに子どもを預けられなかった当事者らに参加してもらっています。今後は国交省や消防の関係者にも参加してもらいたい。他にもありますか?

●保育園設立に税的な優遇を

保坂 財務省ですね。税制の問題は政治にしか解決できません。世田谷区で認可保育園を設置する土地と建物を募集したところ、これまでに470件も応募があった。資産を有効活用したいオーナーが最後に悩むのが、税金です。古いアパートを壊してマンションを建てたら固定資産税の課税標準が6分の1になるのに、保育園にしたら節税にならない。高齢のオーナーだと賃貸借契約の期間中に相続が発生することを心配しますが、その対策もない。保育園を設置できるほどの広さの土地だと相続税はかなりの額になるので、これだけ社会問題になっている待機児童の解消に貢献するのであれば、相続税の支払い猶予や減免を検討してもいいはずです。

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