夕刻、名古屋駅前。キャリーバッグを引いて歩く旅行客が目立つ。女性(24)に声をかけた。中国・上海から友達3人で訪れたという。

「名古屋城? 行く予定はないわ」

 では、なぜ名古屋なのか。女性はこの日の昼過ぎに中部国際空港に到着。名古屋のビジネスホテルにチェックインした。明朝、高速バスで世界遺産の白川郷(岐阜県白川村)に向かうのだ、と楽しそうに話した。

「日本の田舎暮らしを見たいわ」

 彼女たちがたどるのは、いま外国人観光客に人気の「昇龍道」と呼ばれるルートだ。名古屋から龍が天に昇るように北上し、白川郷や、古い街並みなどで知られる岐阜県高山市、松本城(長野県)、兼六園(金沢市)などを巡る。中部運輸局を中心に地元自治体も参加して、2012年から外国人観光客にPRしてきた。14年に白川村を訪れた外国人観光客は前年比42%増の約21万2千人で、そのうち9割がアジアからの観光客だった。

 名古屋観光コンベンションビューローの観光部国際グループ、神谷さとみさんは言う。

「海外からのリピーターが増えるにつれ、東京や京都の次に名古屋をゲートウェーとして中部地域を回ってこられるようになっています」

 この恩恵を受けたのが名古屋のホテルだった。名古屋はもともと、東京や大阪から日帰り圏であることが影響し、出張族のビジネスホテル利用はあまり多くなかった。円安に転じる前の13年1月、名古屋市のホテル客室稼働率は65.8%(観光庁調べ)。それが15年9月には、86.3%にアップ。東京都港区(85.9%)や京都市(86%)を抜いた。業界では85%以上が満室状態とみなされる。

AERA  2016年1月18日号より抜粋