そもそもアベノミクスとは何か。日銀が国債やETF(上場投資信託)を大量に買い入れて世の中をお金でじゃぶじゃぶにする「異次元の金融緩和」(第1の矢)と、公共事業の大盤振る舞い(第2の矢)で景気を押し上げ、時間を稼ぐ。その間に規制緩和などによって企業がビジネスしやすい環境を整え(第3の矢)、中長期的な経済成長を促す、という政策だった。クレディ・スイス証券の白川浩道チーフ・エコノミストは言う。

「金融緩和によって円安が進み、全体として企業の利益は増え株価が上がった。ただ、それ以上のことは起きていない。日本経済の実力は上がっていないので、“企業が賃金水準を上げ、国内の消費が増え、企業のもうけがさらに増える”という好循環につながっていないのです」

 金融緩和には一時的に景気を押し上げる効果しかない。人口が減る日本の成長力を引き上げるには、医療や労働分野での規制緩和や移民労働力の受け入れといった思い切った成長戦略の実行が必要とみる専門家は多い。だが、安保法制の成立と引き換えに支持率を下げ、来夏に参院選を控えた安倍政権には、国民の賛否が鋭く対立する政策に手をつける余裕はなさそう。政権が9月に打ち出した「新3本の矢」も、国内総生産(GDP)600兆円達成に向けた具体策はこれからだ。

 そんな中で日銀が追加緩和に踏み切るなら、昨年と同じように国債やETFの購入額を増やすという手段が考えられる。市場に出回る国債の量から計算すると、今と同じペースで買い進めたとしても、「2016~18年のいずれかの段階で限界に達する可能性がある」(BNPパリバ証券)という見方もある。

AERA 2015年11月2日号より抜粋