人脈は恋愛と同じ。待っているだけではやって来ない。ただSNSのフォロワー数や名刺の数だけ集めてもダメ。“編集力”が必要だ。(ライター・羽根田真智)
メーカー勤務の30代半ばの女性は日々、SNSなどで「自分を高めてくれそうな会」のチェックを怠らない。勉強会や講演会などに出席したら、真っ先に講師と名刺交換し、写真撮影。すぐにフェイスブックで披露し、講師やほかの参加者に友達申請する。SNSでつながる人の数ならかなり多い。
だが、不安だという。スマホという箱の中でつながる人たちが、どれだけ自分を助けてくれたり、影響を与え合ったりできる“人脈”なのかどうか――。
14年前にたった一人で起業し、現在は六本木ヒルズに本社を構える「ブレイン」社長の天毛(てんもう)伸一さん(41)は、「人脈」についてこう話す。
「人脈をつくりたいと思ったことは一度もない。『あの人と知り合いになると仕事で役立つ』などと言われて、だれかと会うこともない。出会いは自然発生的。そうやって出会った人を、好きになるかどうかに尽きる。好きになった人との付き合いを大切に育てていくことが最重要で、自分に課しているのは、裏切らないということだけです」
●会食は3人まで
天毛さんが起業したのは大学を出て約2年後。人脈もカネも経験もない。設備投資が少なくて済むメール配信を主とするソフトウェアの会社から始めた。2011年、念願のハードウェア開発に着手。13年に完成したPOSレジ「ブレインレジスター」が今年、ヤマハ、マツダ、ソニーといった大企業と並び、世界3大デザイン賞の最優秀賞に選ばれた。
ハードウェア開発を始めた時は、素人ゆえ壁にぶつかった。だが、天毛さんがPOSレジへの熱い想いを語ると、出会った人が助けてくれた。
「会社としては無理なので、個人的に協力しましょう」
そう言ってくれた人は、今では新たに起業。共鳴した人たちとの損得抜きの交流が大切な仲間を築いていった。
普段、食事や酒を飲む時は、多くて3人までだ。異業種・同業種の交流会や起業家の集まりなどに以前はよく誘われたが、断り続けていると、誘われなくなった。“人脈という枠にくくれない人とのつながり”こそが、自分を助けてくれたという。
「一生かけて一人の友達ができたら御の字。まだ見ぬ遠くの人脈を求めるより、今ある縁に目を向け、1年の関係より2年、2年より3年と、長い関係を築くことのほうがはるかに尊いと思う」
天毛さんにとって、一般的にいわれる「人脈」のイメージは、誰かの山を登るもの。2合目、3合目などにさまざまな人が配置されていて、それらの人と仲良くなって頂上を目指す。それよりも、自分で山をつくりたい。付き合う人も、自分が本心から付き合いたいと思う人だけに限りたい。天毛さんは言う。
「情報を得ようと思わなくても自然と入ってくる時代。必要以上に摂取すると依存症になってしまう。人脈もそうで、強力なフィルタリングを設けたほうがいいと思うんです」
●結果的に人生が広がる
SNSなどの発達で簡単に人とつながれる時代だからこそ、膨大なつながりから本当の仲間を見つけるための“編集力”が必要だ。
自らつながりの場を構築する、『出逢いの大学』著者、千葉智之さん(42)はこう言う。