「人脈というと、見返りを求めて人とつながるネガティブイメージがある。僕は違う職業、違う考え方のいろんな人と話したりすることが好きで、その人たちとつながるうちに、オプションとして人生の幅が広がった」

 大学卒業後、大手建設会社に就職した千葉さん。勤務地は「人よりミカンが多い島」などだったが、14年前に広島から東京に転勤に。人脈ゼロの状態から数えきれないつながりをつくった。

 上京当時は、深夜まで仕事漬けで、視野が狭かった。同じ業界以外の人と話したいと渇望し、自らSNSで呼びかけ、ランチ会や夜の飲み会を企画。話が広がり面白くて仕方なかった。通っていたビジネススクールの友人の紹介で、総合情報メディアに転職。会合の輪はどんどん広がった。

「多くの人とつながりたいなら、会の主催者になるといい。ただ、手段が目的になるとダメ」

●いざという時に想起

 出会った人との関係がこの先どうなるかは、コントロールできない。Aさんとの出会いがきっかけで、Bさんと知り合ったり、別の機会に出会ったCさんとAさんが友人だと知り話が盛り上がったり……。

「見返りを求めないほど人脈が広がる。一方で、人とのつながりは会った回数でもある。大切なのは、自分が楽しむこと、出会いのチャンスを1回限りの打ち上げ花火にしないこと」

 人脈を広げるには、自分が相手の記憶に残る存在になることも大事だ。「経営者200人のかかりつけ医」「ベンチャー企業のゴッドマザー」などの異名を持つ、コンサルティング会社「プロノバ」社長の岡島悦子さん(49)はこう断言する。

「人脈とは、自分のことが何らかの形で相手の記憶にインプットされて、いざという時に想起してもらえる関係。ところが、『私はこんなに頑張っているのだから、だれかが必ず声を掛けてくれる』と思っている人が圧倒的に多い。待っているだけでは、活躍の機会獲得につながる人脈には絶対になりません」

●タグ付けで自分をPR

 キャリアアップのためには、OJT(日常業務による従業員教育)や勉強会、ビジネススクールで学ぶなどといった能力開発と同時に「機会開発」が不可欠だ。だが、能力開発には熱心でも、機会開発に目が向いていない人が多いという。

 異業種交流会などで、「◯◯会社に勤めています」「広報を担当しています」と自分ではPRしているつもりになる。だが、名刺を配っただけでは覚えてもらえない。岡島さんは、想起につながる「タグ」付けをしなくてはならないと指摘する。

「そのためには相手の“購買支援”を念頭に置く必要があります。自分が何をできるかではなく、相手にとってどう役に立てるかが重要です」

 たとえば「英語を話せる」だけでは不十分。英語で何ができ、相手に対しどんな利益を生み出せるのか? 「英語での交渉に強い」「データ解析が得意」「社会起業家のネットワークがある」といった「タグ」がいくつもあれば、掛け合わせることで自分の大きなPRになる。

「自分のタグは何かを考え、相手の記憶に植え付けなくては」

 あるとき、岡島さんは大手塾チェーンの経営者を探している人から相談を受けた。推薦したのは、教育関係とは全く無縁の男性だった。彼の経営能力の高さに加え、学生時代に教育への高い関心を持っていて、専門知識を身につけるための研究もしていたことに着目した。本人も忘れていたことだったが、彼が提示していた複数のタグが、岡島さんの記憶に残っていたのだ。

 リーダーの多くは、自分が成長したきっかけを「“想定外の機会(セレンディピティ)”が舞い込み、ひと皮むける経験をしたこと」と話すという。

「planned happenstance(計画された偶発性)とも呼ばれますが、人脈とはセレンディピティを呼び込むものであり、そのための機会開発は可能なのです」(岡島さん)

AERA 2015年10月12日号