岩手大学の海妻径子(かいづま けいこ)教授(ジェンダー文化論)が2012年から3年間の総務省家計調査を分析したところ、年収800万円以上の世帯は家事代行や保育、補習教育、保健医療、介護にかける平均金額が、800万円未満の世帯よりも高い傾向があることがわかった。これらの費目はいわゆる「ケア労働の外注費」で、共働きだからこそかかるコスト。実際、年収800万円以上の世帯は、妻の有職率が6割前後と高めだ。

 年収800万円から1250万円くらいまでの世帯は「ケア労働の外注費」が消費支出に占める割合も高かった。自分の洋服代や旅行代を節約してでも、ベビーシッターや家事代行を頼んでいることがうかがえる。

 一方、年収1500万円以上の世帯だと、「ケア労働の外注費」の平均金額こそ高いものの、消費支出に占める割合は低め。贅沢消費ができる余裕があるから、いくら外注費にかけても家計にはそれほど響かないということのようだ。

 つまり、家計の負担になるが働き続けるためには外注せざるを得ない、とギリギリのコスパ感覚で日常を回しているのが、世帯年収800万円の共働き層だとみることができる。

「世帯年収800万円くらいの層では、ケア労働の外注が消費支出を押し上げている。政府の掲げる女性活躍推進は、ケア労働マーケットが開拓されれば経済活性化につながるというねらいもあるのです」(海妻さん)

AERA 2015年9月21日号より抜粋