共働きだから、家事も育児も妻だけでなく、Aさんも率先してやった。休日はキャンプに行き、宿題も見た。ほぼ完璧なイクメンと自負していたのに…。他の生徒が受験勉強にスパートをかけるなか、息子の成績は一気に下降した。

 仕事関係で部下育成講習に参加したとき、講師の大塚隆司(たかし)さんに相談したら言われた。

「思春期の子は、本物を見せると変わることがある」

 ここならと感じた高校の学校見学に誘った。教室や図書館の雰囲気、案内してくれる生徒や教師の落ち着いた様子に、息子の目が輝き始めるのを感じた。

「いい学校だね」

 数カ月ぶりに見た息子の笑顔に涙がこぼれそうになった。あの嵐の日々が嘘のように、今は穏やかな高校生活を送っている。

 Aさんにアドバイスした大塚さんは、『思春期の子と心の距離を感じたときにできる大切なこと』など思春期育児についての著書が多く、不登校児の家庭教師もする。大塚さんは言う。

「思春期は荒れて当然。振り子のように、放っておけば戻ってくるものなのに、下手に関わりすぎて悪化させてしまう。特にイクメンはわが子のことは自分がわかっていると気負いすぎるので、振り子が離れていく状態に動揺するのでしょう」

AERA 2015年5月25日号より抜粋