アスリートを育成するためには、「やる気」の強化が重要。錦織圭も幼少期に行っていたというやる気を育てる方法は、部下の育成や子育てにも通じるノウハウだ。

 やる気の強化学習に地道に取り組み、結果を出しているのが、末本亮太さん(36)だ。少年サッカー激戦区の神奈川県で4強入りしたこともある強豪クラブ、大豆戸(まめど)FCでU-12 を指導する。コーチ業の前は、外食産業で働くサラリーマン。「バイトをその気にさせるカリスマ店長」だった。

「やる気にさせるには、小さな“できる”を一緒に見つけて認めること」

 コーチになりたての時は、子どもたちが、試合や練習前に自分から動こうとしなかった。

「大人が世話を焼きすぎることが原因ではないかと感じた」

 試合の日は、子どもだけで現地集合するよう変更し、保護者にも協力をお願いした。道に迷い、電車を間違えて試合に遅れても続けた。自分の力で試合会場までたどり着くことで次に何をすべきか考える習慣がついた。

「やる気が出て、プレーにも主体性が生まれた」

 世界基準のアスリートを生んだ指導者も、主体性を磨くことが「やる気の土台」だと説く。テニスの錦織圭選手を小学生時代に教えた柏井正樹さん(グリーンテニススクール)は、個人レッスンでは基本的に選手に「何をやる?」と尋ねる。錦織選手に対しても同様だった。少しずつその子に必要な練習に近づけるが、入り口では意思を尊重する。

「面白くなければやる気が出ないのは当然。5年先にはこれが必要だという大人の論理は、子どもには通用しません」

 脳に詳しい篠原菊紀・諏訪東京理科大学共通教育センター教授はこう言う。

「素質や才能をほめても、やる気は引き出せない。一番の肝は、具体的な行動や達成した事実をほめてワクワクさせることです」

AERA  2015年5月18日号より抜粋