とはいえ、切実に悩む人もいる。兵庫県に住む無職の男性(68)は、自宅から50メートル先に保育園があり、園庭での「お遊び」の時間は、キーキーという園児の叫び声が響く。しかも、自宅の反対側には道路を隔てて小学校のグラウンドが隣接しており、少年野球の「声出し」にも悩まされる。両方とも、男性が住んだ後に新設されたという。

「子どもの声は騒音ではない、我慢するべきだという良識派の学者や評論家は一度隣に住んでから言ってほしい。保育園ができることがわかっていれば、家を建て替えるときに2重窓にしたのに。もう今は経済力がありません…」

 隣の保育園を「許容」できるか否かの境界はどこにあるのか。

 背景には、少子高齢化社会がある。子育て世代とリタイア世代の社会における関係性は大きく変わった。教育費などの子育て経費に悩む子育て世代は、蓄えも多い上に年金で悠々自適に暮らす高齢者に不信感を抱き、一方のリタイア世代は、保育園をはじめ若者が「外に頼る」姿勢に非寛容だ。

 大家族でもまれて育ったリタイア世代にとっては、核家族化した子育て世代は過保護で苦労を知らないと映るのかもしれない。退職して静かに暮らしたい世代の権利意識と、子育てに悩む世代の権利意識が真っ向からぶつかる形にもなっている。人口バランスの崩れが、社会に新たなストレスを生んでいる。

AERA 2015年4月20日号より抜粋