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 アニメ「機動戦士ガンダム」が多くの人を魅了するのは、そこに人と人との「相互理解」の難しさという、深いテーマがあるからだろう。主義が対立し、争いが勃発するのは現実世界でも起こっていること。この作品から見えてくるものはあるだろうか。

 シャアとアムロによる最後の戦いを描いた映画「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」(1988年)のエンディングでは、並び立つ主義の対立が「回答保留」になるシーンがある。

 ここでのシャアは、「小惑星を地球に落とす」という大量殺戮に手を染める。すでに一つ目の小惑星は落下。甚大な被害が出た。二つ目も間もなく落ちようとしている。地球には人が住めなくなる。

 シャアはなぜ、こんなことをしたのか。明治学院大学社会学部教授の稲葉振一郎(51)は、こう見る。

「シャアは、理想なんか信じていません。そのことは自分でもわかっていて、そのうえで理想を謳ったりしてきた。フェイクなんです。絶望し、やることがなくなったから、アムロとの対決や大義名分にかこつけて、地球に小惑星を落とそうとした」

 対してアムロは、「そんな不毛なことはよせ」と訴える。

「アムロはシャアを引き戻すことができなかった。なぜか。彼自身、空っぽの人間だからです。ただね、この期に及んで『それでも人間にかけよう』なんて言うのは凡庸である半面、大きな強さでもある。悲しいのは、アムロがそれを伝える言葉を持たないことだった」(稲葉)

 人間への絶望の側に立ったシャア、かたや最後まで信頼を寄せたアムロ。それはコインの裏と表。ゆえに話し合いは平行線。そうこうしているうちに、小惑星にとりついた2人を緑色の光がつつむ。2人は光の彼方に消え、小惑星は地球から離れていった。論理を超えた結末。

 ガンダムの戦場に登場する人物には「状況を支配(把握)」している人間がいない。現実世界でも同じだろう。そういう人間たちが相互理解を試みては、傷つき、散っていく。他者を理解するのは、なまやさしいものではない。だから、乗り越える力を、人は永遠に問われ続けるのだ。

AERA  2015年3月2日号より抜粋