インフルエンザが大流行。予防接種せずにかかった人がうつすこともある。ワクチン接種は義務ではないが、他人のことも考える視点が大事だ。

 1月半ば、都内に住む会社員の女性(36)が5歳の長女を通わせる保育園では、インフルエンザが大流行した。最初に発症したのは、長女と同じクラスのAくん(5)。一気に広がり、ワクチンを打っていた長女も感染した。

 Aくんの母親は「危険なのでワクチンは打たない」という主義の人。もちろんAくんからうつったという確証はなく、Aくんがワクチンを打っていたとしても同じ状況だったかもしれない。しかし家族全員で予防接種をして備えていた女性にしてみれば、少しでも感染の機会を減らす努力をしてほしかったというのが本音だ。

「保育園には乳児もいるし、妊娠中の保護者もいます。自分たちだけの問題では済まない」

 インフルエンザに限らずワクチンは、「効果を感じない」「副反応が心配だから」などの理由で接種しない人や、子どもに受けさせない親もいる。しかし武蔵国分寺公園クリニック院長の名郷直樹医師はこう話す。

「どんなワクチンも副反応はゼロではありません。しかしワクチンで得られるメリットに比べると、リスクは微々たるもの」

 例えばおたふくかぜの場合、ワクチン接種による副反応の無菌性髄膜炎は2000~2500人に1人だが、おたふくかぜに自然感染すると100人中1~2人が合併症の無菌性髄膜炎を発症する。さらに年間700~2300人が難聴になるほか、成人男性は15~30%が睾丸炎を発症し、将来不妊につながることもある。そのおたふくかぜは、ワクチン接種で感染を90%以上防げるのだ。

 インフルエンザは、予防接種してもかかったという人が少なくない。流行する型も変わる。

「インフルエンザワクチンの場合は感染を防ぐ率が低く、10%の発症をワクチンで5%に抑えられる程度です」(名郷医師)

 この率の低さが、予防接種は“マスト”という意識から遠ざけているのかもしれない。だが名郷医師は、ワクチンを多くの人が打つ効果を強調する。

「接種する人が増えるほど、流行の規模は小さくて済む。例えば天然痘は、全世界で予防接種(種痘)が励行され、1980年に根絶宣言が出された。ワクチンを打たない人も、周囲の人の接種で守られている面があるんです」

AERA 2015年2月2日号より抜粋