東京都主税局税制調査課長丹羽恵玲奈さん(47)職場結婚した夫は三つ上。休みは家族で国際交流ざんまい。留学生のホストファミリーも務めるが、「予想より簡単ですよ」と言う(撮影/鈴木愛子)
東京都主税局税制調査課長
丹羽恵玲奈さん
(47)
職場結婚した夫は三つ上。休みは家族で国際交流ざんまい。留学生のホストファミリーも務めるが、「予想より簡単ですよ」と言う(撮影/鈴木愛子)

 管理職の道が見えたところで、妊娠がわかった。それでもポストは与えられた。だが、時間制約のなかで働く大変さは予想以上――働く女性ならば他人事ではない出来事。東京都庁で働く丹羽恵玲奈(47)は、その経験を部下に還元したいと話す。

 都庁では、実力で試験を突破すれば昇進の階段を上るというシステムだ。実際、都庁の女性管理職の割合は現在、約2割に達し、日本企業の平均1割と比べると高い。丹羽も「当たり前」のこととして管理職を目指した。

 管理職試験に受かり、課題をこなし、準備期間を経て管理職になることが決定した。だが、そこで妊娠がわかった。これからどうなるのか、管理職ポストはもう回ってこないのではないか、とも思った。だが、35歳で長女を出産して職場復帰するとき、はじめて管理職に昇進した。

「出産後でも仕事のチャンスはもらえた。不安はありましたが、期待に応えたいと思った」

 ただ、思いと現実は違った。長女はまだ0歳児。深夜の授乳、職場での搾乳、乳腺炎…。管理職なのに残業はできず、なんとか仕事を切り上げて職場を飛び出しても、保育園のお迎えに間に合わないこともしばしば。仕事をやめたいとは一度も思わなかったが、肉体的にも限界で、何かを変えなければこのままでは続かないと感じていた。

 転機は予想外のところから訪れた。両立の厳しさに疲れ果てていたある日、勤務先で公募を見つけた。米ニューヨークに赴任し、国際交流を手がけるという総務省の外郭団体の次長ポストだった。ただでさえ大変な時期に、海外での新しい仕事なんて、通常なら考えないだろう。だが丹羽の発想は違った。止まっていて悩むより、チャレンジしてみたい。

 長女を連れて、ニューヨーク赴任が決まった。夫とは日米の別居生活。赴任中の2年間は、両親が交代でニューヨークに来て同居し、育児をしてくれた。

 現地で子育てファミリーと交流する機会もあった。米国では、無痛分娩が多く母体の負担が少ないこと、ワーキングマザーは産休・育休がない代わりに、勤務先と相談して復帰時期を決めるなど働き方の自由度が高いことが印象的だった。

 丹羽は、これまで自分が悩んできたからこそ、自分の経験が後輩の女性たちに少しでも役立てばいいと思っている。自分が長女を出産した当時はSNSがなく、同じ悩みを抱える同僚ママたちとつながるのは難しかった。

「職場に先輩ワーキングマザーがいたけれど、プライベートな相談はすべきでない、と自分を縛っていた。後輩の女性たちが気軽に話せる場があったら」

 そう思って、同じ都庁で働く管理職女性たちと一緒に「ママ向け研修」を企画した。庁内からママだけでなく、結婚したばかりの人や将来ママになりたい人、約30~40人が集まった。関心事やライフステージによってグループ分けしてディスカッションもしたところ、そのつながりが普段も悩みを相談したりサポートし合ったりする関係になった。

AERA 2014年12月15日号より抜粋